尖閣問題は国際世論と日本世論のベクトルを揃えた
意図されたわけではないが尖閣問題は、日本に極めて有利に展開していると考えられる。三つの大きな成果が獲得された。①民主主義と市場主義とは異質の中国政権の本質(共産党独裁体制)が露呈し、国際世論の風向きを一気に変えた、②日本国民世論を対中警戒と日米同盟強化に一気に統一させた、③共通の脅威の存在が明確となり日米同盟の結束が強まった。こうした変化は、何年議論しても獲得できないものであり、中国が失ったものはあまりにも大きい。
船長釈放で日本は国際世論を味方につけた
日本国内では中国の領域侵犯と漁船による警備艇破損に対して何のペナルティーも与えられないどころか、レアアースの禁輸、通関手続きの意図的遅延、フジタ社員の拘禁など横暴な中国に屈した日本政府の対応に、屈辱外交との批判が強い。国民にはやるせない気分を抱かせている。しかし上述の三つの成果が獲得できたということから、この間の政府の対応は適切であったと評価できよう。①漁船拘束、船長起訴は日本の領有権を明確にすることで適切であった。またそれは中国の横暴な本質を露呈させるという効果も誘導できた。②船長の不起訴釈放も、「ならずもの」との無駄な衝突を避けると言う点で、適切であった。仮に起訴有罪処分としたとすれば、尖閣領有を主張する中国は面子にかけて武力行使に及んだかもしれない。そうなれば武力衝突の覚悟と準備ができていない日本は窮地に陥ったであろう。また問題が日中の領土争いに矮小化されることで、国際世論は日本に加勢しないどころか、けんか両成敗となったであろう。しかし中国の横暴に付き合わなかった(大人の対応をした)と言うことで、国際世論は日本の味方となった。日本は今後の国際情勢の要である「異質な中国に向き合う最前線」に立つこととなり、国際協調の真ん中に位置することとなる。他方中国は些細な領土問題により自由貿易や国際法治主義のルールを打ち捨てたことで、世界の信認を著しく損なった。国際社会はもはや中国を同等のパートナーとは見ず、異質で脅威を与える存在と見るかもしれない。中国は国際世論を敵に回すという、大きな損失を被ったと言える。
「中国異質論」の台頭と日米同盟再構築
尖閣問題は、日米安保条約の必要性を日本国民にも国際社会にも知らしめた。今後、1990年代の「日本異質論」をほうふつとさせる(いやそれ以上のスケールでの)、「中国異質論」が台頭してくるだろう。中国は1980年代末の日本以上に、近い将来近隣破壊的強さを持つことを恐れられている。現在中国のGDP(2009年、4.8兆ドル)はほぼ日本と同等、米国の3分の1であるが、このままいけば10年以内に米国を凌駕する可能性が高い。中国のそうしたプレゼンスは現在の問題ある市場主義、民主主義、法治主義、財産権、知的所有権の状況からすると、世界のかく乱要因になりかねず、覇権国米国も国際社会も容認できるものではない。
中国を抑制し自己変革の圧力をかけ続けるためには、その隣国の日本のプレゼンスの高まりがバランス上求められる。しかし、長期経済停滞により日本では資本主義や市場経済、グローバリゼーションに対する信頼感が低下している。万一日本が漂流し始めれば、東アジアは大きく不安定化する。一時鳩山政権が主張したように日米中正三角形などと言う議論が強まり、日米関係の希薄化、日中接近などと言うことが起これば、米国の国際戦略は根底から揺らぐこととなる。ここは日本経済の浮上が、覇権国米国にとっても緊要となってくる場面である。
「超円高」時代の終焉
考えてみれば1990年以降2000年代まで、「日本異質論」の下で異常に競争力が強かった日本が封じ込めの対象とされる時代が続いた。その象徴が「超円高」でありその帰結が「失われた20年」であった。しかしその不幸な時代は終わりつつあると言える。長期にわたる経済繁栄のカギを握る地政学要因、覇権国米国のパワーゲームは20年ぶりに日本にとって好都合の方向に風が吹き始めている。日本経済がデフレ、長期停滞から本当に脱出するチャンスが巡ってきている。今迫られている日米同盟の再構築は、日本再飛躍の好機となるかもしれない。
それはペナルティーとしての異常な円高が再現する可能性を一段と低くするものである。(昨今の円高進行が中国の外貨準備を活用したドル売り円買いの結果であるとしたら、尚更である)
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