2009年12月11日

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投資ストラテジーの焦点 第285号

2010年の鍵は米経済、劇的回復の可能性
~景気回復、株高継続、ドル反転の年に~

2010年の情勢分析の鍵となる米国経済に関して、人々は依然悲観バイアスに囚われている。最楽観論者でも、2010年の経済成長率は4%程度、それは落ち込みの大きさから逆算した通常の回復率9%、の半分程度にすぎない。しかし実体経済は、企業部門においては空前のスリム化が、家計部門では空前の過少消費化が、住宅部門では空前の価格割安化、が進行している。いずれもパニックによる異常収縮の結果である。米国実体経済の調整は十分であり、今後、異常から脱却のインパクトは想像外かもしれない。株式には業績、需給の両面からの支援が予想される。 米国主導の世界株高は続く可能性大。ただ半年で5~7割という急謄の後だけに、利益確定の口実として懸念要因が挙げられている。当面、金融相場から業績相場への踊り場にさしかかっており、しばらくの足踏みもありえよう。為替に関しては、2010年は米経済の強さが判明し、ドル安大転換の年となるだろう。当面のドル安は米国景気実態とはあまりかかわりがない投機のドル安であるが、それは米国の経済回復力優位が歴然と判明する時に終わるのではないか。 日本株式は絶好の底値買い領域にあるが、しばし世界株式に遅れるだろう。しかし、①米国経済の力強い回復、②ドル安の転換(円高ピークアウト)によって、2010年の春先ごろから大きく上昇していくのではないか。もっとも構造問題に対する不安、政権・政策に対する不安からセクター別の動きには格差が出るだろう。

(1)依然人々を支配する悲観バイアス

三者三様の悲観バイアス

11月雇用統計の改善など、経済データは米国経済の劇的転換を示唆するものが多くなっている。しかし、人々はそれを正面から見ようとはしていない。この慎重さには三者三様の理由がある。第一に、悲観論者は「昨年来の金融パニックが過剰債務、過剰消費に彩られた繁栄の時代の終わりを意味する」とすでに将来を決めつけており、回復の事実が示されるまでは、その主張は捨てられない。第二に、当局は万が一にも昨年末の恐慌事態の再現は許されないから、慎重なバイアスを保持し続ける。第三に、経済と市場のアナリストは、レピュテーションのリスクから楽観論の主張を控えている。「悲観論優勢の中で些細に見える事実だけで楽観論を主張すると軽率に見られてしまう」「あれほどの金融パニックが発生した以上は、隠されたリスクの存在可能性を排除できず、慎重スタンスを取らざるを得ない」という事情がある。つまり、ほぼ全員が悲観バイアスの虜になっているのだ。であれば、投資チャンスはアップサイドにある、と考えるべきではないか。今必要なのは、観念ではなく、現実の経済データの検証である。

(2)悲観論を打ち砕く米国ミクロ調整の進展

驚くほど順調な企業調整

転換点においてカギを握るのは企業部門の調整度合いである。雇用も賃金も投資もすべては企業家の意思決定から発するからである。そこで米国の企業データをチェックするとその調整の速さ、健全化は驚くほどである。在庫調整は2009年前半で完全に終わった。また米国の雇用調整も世界で際立って迅速であり、ほぼ完了した。IMFによる 2009年のGDP見通しは米国-2.7%、日本-5.4%、EU-4.2と米国が最も落ち込みが小さいのに、失業率の上昇幅(2008年2Q⇒2009年2Q)は米国4%( 5.3%⇒9.3%) 日本1.2(4.0%⇒5.2%)、EU1.9%(7.4%⇒9.3%)と米国が最も大きい。米国だけは生産減を上回る雇用削減が実施されており、不況下でありながら労働生産性が上昇しているのである。この結果、米国企業の労働分配率は2009年3Qに過去最低水準に低下した。不況期には人員稼働が低下し労働分配率が大きく上昇するのが普通であるのに、今回のリセッションでは、それが全く起きず、企業コストが異常なほど抑制されている。 [caption id="attachment_350" align="alignnone" width="702" caption="図表①:米国企業在庫推移 図表②:米国労働分配率と景気推移"]図表①:米国企業在庫推移 図表②:米国労働分配率と景気推移[/caption]

企業は空前の資金余剰

更に設備調整と資金収支改善が顕著である。設備稼働率の急低下に押されて設備投資が激減し、経済成長を押し下げている。設備投資対GDP比率は10%と過去最低水準まで低下している。しかし、不況下にありながら企業部門のキャッシュフローはほぼ横ばいと堅調であり、フリーキャッシュフロー(企業の資金余剰)は過去最大規模に膨れ上がっている。以上の企業部門の調整進展により企業利益が守られている事情は、新聞の「戦後最大の不況」というヘッドラインにはそぐわない、今回の不況の特異性を示している。 [caption id="attachment_351" align="alignnone" width="570" caption="図表③:米国企業(非金融)のキャッシュフロー、設備投資と資金余剰の推移"]図表③:米国企業(非金融)のキャッシュフロー、設備投資と資金余剰の推移[/caption]

貯蓄率の上昇は終わった

更に景気の本丸である米国消費・住宅に関しては、過剰は行きすぎと言えるほど調整されている。そして自動車はピーク比半減のレベルから、戸建住宅需要はピーク比4分の1のレベルから上昇し始めた。また消費者心理の悲観度の関数である家計貯蓄率も2008年1Qの1.2%から2009年1Q3.7%、4月4.9%、5月6.4%と上昇した後、6月4.9%、7月4.8%、8月3.9%、9月4.6%、10月4.4%となり、5月でピークアウトした公算が強まっている。今後の消費を占ううえでカギとなる貯蓄率は、雇用と資産価格(資産効果)の二つに大きく依存する。そして①雇用減少がピークの1月の74万人から11月には1万人となり、ほぼ終焉したこと、②株上昇、住宅価格底入れで、資産効果がプラスに転じてきたことから、消費者心理の持続的改善はほぼ確実であろう。米国家計の純財産額は2007年の65兆ドルをピークに2009年1Q48.5兆ドルまで減少したが、2Qは50.8兆ドル、3Qは53.4兆ドルと6カ月で5兆ドル弱の増加となった。4Qまでにはさらに3兆ドル程度の増加があるだろう。2009年累計では米国家計の純財産は7兆ドル、対GDP比50%ほどの増加である。それは家計の消費を大きく後押しするだろう。 [caption id="attachment_352" align="alignnone" width="703" caption="図表④:米国自動車販売台数 図表⑤:米国一戸建て住宅販売戸数"]図表④:米国自動車販売台数 図表⑤:米国一戸建て住宅販売戸数[/caption] [caption id="attachment_353" align="alignnone" width="704" caption="図表⑥:米国家計の貯蓄率推移 図表⑦:米国家計の資産、債務、純財産額の推移"]図表⑥:米国家計の貯蓄率推移 図表⑦:米国家計の資産、債務、純財産額の推移[/caption]

住宅にバーゲンハンティングの兆候

中古・新設住宅販売、住宅着工は大底から回復し始めた。住宅建設労働者雇用削減はほぼ終了した。住宅の取得能力指数は過去最高水準まで高まっている。つまり住宅の買いやすさは過去最高と、空前のお買い得状態にある。中古住宅取得ブームの兆候が表れている。低金利と住宅購入支援策により、pending home sales(中古住宅の販売契約行動に入った数)は急増しており、数ヶ月後の中古住宅販売の大幅な増加が予想される。価格面では、これまで最大の下押し要因であった新設住宅の在庫戸数(売れ残り戸数)が10月にピーク57万戸比半減の24万戸と過去20年来最低の水準まで低下し、価格下落プレッシャーは大きく軽減されつつある。ケースシーラー住宅価格指数は2年ぶりで前月比増加となる等、住宅市場の底入れが鮮明になってきた。それが前述の米国家計の資産効果を支え、消費に好影響を及ぼすという、好循環に入るものと予想される。 [caption id="attachment_354" align="alignnone" width="704" caption="図表⑧:米国住宅買い易さ指数 図表⑨:米国新設住宅在庫戸数"]図表⑧:米国住宅買い易さ指数 図表⑨:米国新設住宅在庫戸数[/caption] [caption id="attachment_362" align="alignnone" width="703" caption="図表⑩:米国中古住宅販売と販売成約指数 図表⑪:全米20都市の住宅価格指数(ケース・シラー指数)"]図表⑩:米国中古住宅販売と販売成約指数 図表⑪:全米20都市の住宅価格指数(ケース・シラー指数)[/caption]

(3)回復の阻害要因は無視し得る

V字回復の阻害要因・・・・ 雇用と信用は遅行指標

もちろん企業部門の改善は米国労働者につけを回したためであり、雇用減少が消費の回復を妨げているという批判は可能である。また銀行の体質改善の努力はビジネス向け貸し出し減少をもたらしている。この雇用減、信用減が続くことにより、景気回復が頓挫するというのが、つい最近まで圧倒的多数派であったWディップ型回復論、又はL字型回復論の根拠であった。しかし、図に見るように、景気回復の最初の1、2年間程度はいつも雇用や銀行のビジネス向け貸し出しはマイナスであった。雇用減少、貸し出し減少が続く中で景気回復は進行するものなのである。

商業用不動産も遅行する

マクロ景気に遅行するという事情は商業用不動産問題についても言えることである。最もレバレッジが高く貸出事情に敏感な商業用不動産は、リセッションが終わってからも悪化が続く。現在7000億ドルのCMBS(商業用不動産担保証券)残高の中から、資産価格の値下がりと銀行によるローン延長の拒否によって1000億ドルの不良化が発生し、地方銀行を破綻させるとの予測もある(ドイツ銀行)。確かにマクロ経済回復が頓挫した時には次の危機を引き起こす要因にはなりえるが、リーマン・ショック前と異なりFRBとFDICの監視体制と危機対応体制は完ぺきに整っている。部分的破綻が全面的危機に進行する可能性は小さいのではないか。 [caption id="attachment_356" align="alignnone" width="590" caption="図表⑫:リセッションと米国雇用増減の推移"]図表⑫:リセッションと米国雇用増減の推移[/caption] [caption id="attachment_357" align="alignnone" width="590" caption="図表⑬:リセッションと米国銀行のビジネス向け貸し出し推移"]図表⑬:リセッションと米国銀行のビジネス向け貸し出し推移[/caption]

財政支援はあと1年弱続く

今回は回復困難との説のあと一つの論拠は、今景気を押し上げている財政・金融支援の負の効果がある。第一に、今は経済成長を2%程度押し上げている財政刺激策は2010年末には終了するので、一時的な回復の減速はあるかもしれない。しかし、現在の経済悪化は景気循環的要素(設備投資、耐久財支出、住宅投資、在庫投資)が過去最大のペースで落ち込んだことによってもたらされている。景気回復局面ではその循環要因の反発は、通常の景気回復時よりも強くなると予想され、それで十分カバーされるのではないか。第二に、財政累積赤字(米行政管理予算局の予測で2019年対GDP比76.5%)の増加が金利を押し上げたり、インフレを喚起するなどの懸念が語られている。しかし、どちらも少し先の可能性の話であり、当面は全く問題にはなっていない。

(4)業績と需給の両面から吹く株高支援風

企業に人員余剰はなくコストが抑制され、内部資金が潤沢であると言うことは、企業家に自信が戻りさえすれば、雇用拡大や前向きの資金使用(新規設備投資・企業買収・自社株買い・配当増加)をジャンプ・スタートできる状況にあることを示している。企業部門の調整が完了し損益分岐点が大きく引き下げられたところで、米国製造業の新規受注が急回復している。これから2010年前半にかけて生産と企業収益は大きく飛躍する前夜にあると言える。米国企業業績のポジティブサプライズが予想される一方、企業部門の空前の資金余剰がM&A、自社株買い、増配となって株式市場に流入している。つまり、業績と需給の両面からの株高環境が定着しているといえる。 「谷深ければ山高し」、過去景気の落ち込みが大きいほど回復力も強かった。今回戦後最大の景気落ち込みとなったわけで、通常であれば反発力は高くなる。過去の相関から試算すれば2010年9%成長が計算値になるという。しかし、今最も楽観的な論者でも4%成長の予測に留まっている。平均は2%台、二番底またはマイナス成長と見る悲観論も根強い。上述の悲観バイアスに影響されている、とは考えられないだろうか。誰もが想定していない劇的回復が起きたら、どうなるだろうか。

(5)世界のトレンドから隔絶した日本株安は続かない

こうした中での日本株の低迷を世界景気不安、米国悲観論などと重ね合わせてはならないだろう。日本株式の世界から突出した安さは日本固有の二つの要因による、と考えられる。 ① 日本株は世界景気に最も敏感(景気変動に敏感な高級品・ハイテク素材・資本財に特化しているため)である故に、世界株高が今のところ金融相場の色彩が強い故出遅れている、いずれ景気が本格的に立ち上がれば、日本株は敏感に反応するはず、 ② 日本固有の構造的マイナス要因も(デフレ、構造改革の不発による内需の遅れ、日本人の異常な自立心のなさ、リスク回避志向etcによる) 民主党政権政策の迷走により日本株式の割り負けが続いているが、それは①により、凌駕されるだろう。 [caption id="attachment_358" align="alignnone" width="532" caption="図表⑭:世界に取り残される日本株式"]図表⑭:世界に取り残される日本株式[/caption]

(6)2010年ドル安は大転換へ

ドル安は米国景気を有利にする

ドル安に関しては、米国経済不安によるものではなく、単純な投機によるものと考えられ、金融危機や経済回復の阻害要因とはならないだろう。ドル安=米国からの資金流出は、米国人の海外投資増加および、非米国人によるドル債務の増加による。それらはいずれも投資家がバランスシートを膨張させリスクテイクを強めていることの現れである。ドル安が米国株高とともに同時進行してきたのはその証拠。現在進行中のドル安を米国の信認低下や景気回復不安によるものとの考えには整合性がない。2010年、いずれ米国経済の回復がより実態を伴うようになり、実物投資需要が発生し、米国の利上げが視野に入ってくればドルは反発に転じよう。ドル安は米国景気を一段と他国より速く回復させることとなることは明らかなので、2010年にはドル堅調地合いに転じよう。

円高は日本景気を不利にする

他方円高は、一般論としてのドル安以上に、日本人の内向き、リスク回避姿勢に影響されている可能性が高い。日本人の消極投資姿勢により、資金が国内に滞留しているのである。しかし、円高は日本の景気劣位を一段と際立たせるので、景気実態と政策姿勢の変化(円安誘導)により2010年には大きく円安に転換する可能性が強い。

通貨当局の覚悟が問われる

懸念は、図に示すように、過去ドル円レートの基本トレンドは、日米の短期の実質金利差によって方向づけられてきたことである。そして現在の短期実質金利は日米ともに名目では同じゼロ金利でありながら、日本のデフレ・米国のプラス物価継続により大幅に拡大している。2009年10月は-2.55と過去10年来で最大となっている。このような日本の実質金利高が続く下で(それが原因となって)大幅円高が定着すれば、日本経済は金利と為替のダブルパンチを受け、大きく悪化する可能性が出てくる。日銀・財務省がそうした圧力に対抗できるとは思われない。財務省の通貨介入、日銀の抜本的デフレ脱却策が検討されるのは必至かもしれない。いずれ実態に合わない円高は是正されよう。 [caption id="attachment_359" align="alignnone" width="524" caption="図表⑮:ドル円レートと日米実質短期金利差"]図表⑮:ドル円レートと日米実質短期金利差[/caption]

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