2022年12月22日

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ストラテジーブレティン 第321号

攻めの日銀
~ リスクアバーターは窮地に ~

YCC変更の目的、アニマルスピリット鼓舞に向け前進

12月20日のYCC (イールドカーブコントロール) 変更、0.25%から0.5%への長期金利変動幅の拡大、はサプライズであった。誰も予期しなかったということは日銀が攻めている表れであり、株価やリスクテイカーにとってはポジティブ。株高要因ではあっても株安には結びつくものではないと考える。

 

サプライズで市場を畏怖

今回のYCC変更の意義として以下の3点が指摘できる。

  1. 日銀がフリーハンドであることを示し、市場を畏怖した
  2. 金利上昇の長期トレンドを示唆し、投資家のaction変更=リスクテイクを促した
  3. YCC枠内での調整の余地と正常化 (=出口)へのスムーズな道筋を示した。市場の乱高下と歪みに対する手当は十分になされた。2・5・20年の新発国債を対象に、指定した利回りで無制限に買い入れる「指し値オペ」を実施すると通知し、10年だけでなく、利回り曲線全体を制御する姿勢を鮮明にした。QEも増額(月7.3兆円から9兆円へ)。

長短金利差の拡大から金融機関経営にプラスとなる。懸念された住宅ローンも短期金利に連動する変動ローンは変わらず、長期金利に影響される固定ローンが上昇する。この金利上昇は、銀行の貸し出し需要を減らすどころか、「金利が低い今のうちに借りておこう」という意欲を高め、貸し出しを増やすだろう。

 

日銀はJGBショート(=借り入れの増加)を鼓舞しようとしている

日経新聞は「投機筋に追い込まれた日銀、ブルーベイアセットによるJGB売り奏功」(12月22日.)と日銀が負けたように描いているが、全く違う。日銀は投資家や企業にブルーベイのように動いてほしいのだ。JGBショートとは「金利が低い今のうちに借りておこう」(=債務の増加)と同義である。

 

W・バフェット氏は、2019年0.4%の金利で6000億円を調達し、配当率4~5%の5大商社株を購入したが、今年11月に円建て債発行で更に1150億円調達、これまでの調達額累計は1兆円を突破した。日銀はこのようなアニマルスピリットを鼓舞したいのだ。今の異常な低金利のうちに、これからの金利上昇で恩恵を受けるポジション構築(=借金増加)を支援したいのだ。上昇企業の財務担当者も投資家も、鼎の軽重を問われている。

 

為替の軛から解放され、日銀はフリーハンドに

日銀は何故フリーハンドなのかと言えば、為替市場に配慮する必要が全くないからである。円暴落の心配はない。また円高へのバッファーは十分である。ジョージ・ソロス氏のポンド売りに敗れた1992年のイングランド銀行(BOE)とは違うのだ。

 

投資家、企業に無力感を強いるYCC批判者こそ日銀の敵

メディアのコメントは混迷、株式市場も惑わされて気迷いが続いている。今回の措置の評価は戦術論ではなしえない。日銀が何と戦っているのか、日銀の勝利とはどのような状態であり、それに近づいているのか否か、という物差しが必要である。日銀はデフレと戦っているのであり、デフレのリスクを軽視(or無視)する異次元金融緩和の批判論者と戦っている。YCCは悪、失敗すると言い続けてきたメディアや多数派のエコノミストは、「失敗する2%インフレの定着は無理だから、リスクテイクはするな」と投資家と企業のアニマルスピリットを抑制し続けてきた。

 

日経新聞金融政策・市場エディターの大塚節雄氏は「YCCは異次元の金融緩和の敗走、今回の変更は異次元緩和「解体」の始まり」(12月21日)と論評し、人々に警戒するよう呼びかけているが、全く間違った決めつけである。YCCは異次元金融緩和スキームの深化であり、正当な金融政策である。

 

異次元金融緩和とは、日銀による市場コントロールの強化であり、表面的には市場機能を阻害するように映る。異次元金融緩和批判論者は、YCCは日銀による究極の市場コントロール、モラルハザードであり教科書的に望ましくない、と市場機能の阻害を指摘するが、そもそも市場がリスクテイクの舞台として全く機能しなくなっていたので、異次元の劇薬が必要になったのである。デフレからの完全脱却という日銀の最終目的のためには正しく、おそらく唯一の経路なのだ。

 

そうした戦略論無しの日銀政策批判は、大衆を惑わす以外の何物でもないことを強調したい。

 

かつてYCC・長期金利の固定化は1940年代末の米国で実施されたが、当時の米国株式はバリュエーションが歴史的安値にあった。つまり大恐慌と戦争という事態にあって、投資家のアニマルスピリットは壊れていた。しかし下図に見るようにYCCが終焉した後の1951年以降、米国株式は急騰を始めた。こうした歴史上の教訓を想起するべきである。

 

 

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