2014年12月02日

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ストラテジーブレティン 第130号

小泉郵政解散後の相場の再現濃厚
~待ちきれない市場、選挙明け日経平均2万円視野に~

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」は川端康成の「雪国」の冒頭だが、「総選挙を終え2015年を迎えるとそこには陽光が輝いていた」となるのではないだろうか。今回の解散総選挙は、経済と株価に決定的好影響をもたらす可能性がある。2005年8月8日に郵政民営化という一点に絞って小泉首相は解散総選挙を表明し、9月11日の投票で小泉政権が圧勝した。この解散を表明してからその年の年末までのわずか4カ月あまりで、株価は4割以上値上がりしたが、今回もそのような劇的な変化が濃厚になってきたと考える。

 

それは、この解散総選挙が安倍政権の基盤を更に強めることが決定的とみられるからだ。今回の解散に対して、政権に批判的なメディアや人々は、大義なき解散と評している。「アベノミクスは失敗した、経済政策を転換するべきだ」、あるいは「集団的自衛権容認も正しくない、安倍政権の近隣外交は失敗した」などという主張がその根拠となっている。となればアベノミクスに対する信任・不信任を問うということは、まさしく批判者にノーという機会を与えるのであるから、大義は十分にあるということは明らかである。

 

そもそも安倍政権の政策は失敗したのであろうか。依然として日銀の量的金融緩和は禁じ手、副作用ばかりが大きく止めるべきだと主張している人々がいる。しからば今から2年前の民主党政権の反成長政策、その結果として株価が4年間も世界最低の水準で低迷していた時代に戻ればいいというのであろうか。安倍政権が誕生してからの2年間で、すでに株価は2倍になり、株式市場の時価総額は270-280兆円から500兆円を超えてきている。国民の株式財産の価値は2倍になったのだ。

 

為替については、1ドル80円だった円が、今や120円目前。仮に80円に戻ればようやく一息をついたソニーやパナソニック、シャープ、等の日本のエレクトロニクス産業は再び壊滅的危機に直面するするだろう。円高修正が遅れた為に、本来の競争力が発揮できなかったエルピーダメモリーはマイクロンテクノロジーに買収され、日本は世界のDRAM市場から撤退した。しかし今、マイクロンテクノロジーは、買収したエルピーダメモリーの広島工場を1千億円かけて拡張しようとしている。つまり、今から2年前までの円高がいかに大きな傷跡を日本にもたらしていたか、しかしそれが是正されたことでいかに潜在的に大きな可能性が広がったか、ということが示されたと言える。

 

奇妙にもアベノミクスを批判し続けている朝日新聞は11月24日の社説で「異次元金融緩和にいったん入ったら、政策を転換することは極めて困難である。首相自身が異次元緩和以外の選択肢がない状況を作った。異次元緩和は当面続けるしかない。これまで通りデフレ脱却の道を突き進むのか、異次元緩和のリスクと限界を踏まえて経済運営をより慎重に進めるのか(だけが有権者に問うことができることである)」と、今の政策を続けろと言っている???

 

また安倍首相の近隣外交が批判されている。しかし日中関係が決定的に悪化したのは、尖閣国有化によってであり、それを実施したのは安倍政権ではなくて民主党野田政権であった。今回APECで、初めて安倍首相は習近平主席と会見した。凍結していた関係が少しずつ解凍しつつあるシグナルとも言えるのではないだろうか。安倍首相の靖国参拝に対する批判は確かにある。しかしそのような批判がある以上に、米国は安倍氏がこの2年間行ってきた集団的自衛権の容認あるいはデフレ脱却という政策を高く評価し、安倍政権との一層の協力関係を強めようという姿勢を明らかにしているのが、今の大きな特徴である。

 

経済政策や外交安全保障政策などについて信頼に足る代替案をどの野党も提示できていない。つまり今回の解散総選挙はもっぱら安倍政権の信任投票であり、2年間の実績に照らして安倍政権の信任を否定する要素は極めて小さいということである。選挙の結果、安倍政権が再び信任を獲得し、場合によってはさらに大きく勝利をする可能性が濃厚である。となれば安倍政権は、従来以上に大きなエネルギーを持って、政策をもう一歩進めるだろう。

 

安倍政権の次の政策は、アベノミクスの第三の矢であり、改革あるいは規制緩和だと考えられる。おそらく選挙で信任を得た安倍氏は、既得権益者らの抵抗を押し切って改革を推し進めることを、はっきりと示すだろう。実現する可能性が強いのは、法人税の引き下げ、労働市場の改革、医療の改革、農業の改革など。これらは日本の経済を押しとどめている様々な市場経済の阻害を取り除くことによって、海外の投資家の期待を大きく高めることになるだろう。

 

消費税増税が先送りされるということは、将来の財政再建の姿勢は堅持されているということである。今回先送りされた2%の消費税増税は、民間経済から5兆円程度の購買力を奪うと考えられている。しかし日本の株式市場の時価総額、500兆円のたった1%の株価値上がりで5兆円の資産所得が生まれる。つまり、株価が値上がりしてデフレ脱却が実現し、人々の心理が好転すれば、5兆円程度のマイナスは極めて軽いものになる可能性も十分にある。そういった意味で消費税増税を先送りし、より強い経済を実現し、その先に必要な増税をして財政再建を図るという政策は、極めて説得力のある政策と言える。ムーディーズによるまるでバックミラーを見て運転しているかのような「日本国債格下げ」を、市場はほとんど気にかけないだろう。

 

こういった一連の理屈を、おそらくこれから2週間あまりの市場が織り込んでいくだろう。そして選挙で安倍政権が勝利したとすれば、その先の日本の経済の展望はぐっと開けてくるのではないか。野党に全く信頼できる対案がない以上、選挙戦が進展すればするほど安倍政権の勝利は確実と見えてくるだろう。株式市場は選挙結果を待ちきれず大幅な騰勢を開始する可能性が強い。

 

2015年の日本経済については、次回にレポートするが、①米国経済が極めて順調、対米輸出増加、②消費税増税のマイナス一巡、③来年は円安のプラス効果が企業収益の配分を通じ大きく顕在化、④原油価格下落、等から、一段と成長率を高めるだろう。

 

この解散総選挙公示の時点で17000円台を固めている日経平均は、安倍政権勝利が確定した時点で19000円、年末、年初には2万円を超えていくのではないか。そしてデフレ脱却が確かとなる2015年中に25000円が視野に入ってくる可能性が考えられる。数年後にはフェアバリューとみられる3万円を目指す大きな上昇が、いよいよ射程距離に入ってきたのではないか。そうなるとまさしく、2005年の小泉郵政改革と同じようなスケール、しかし長い目で見ると、もっと大きなスケールの株価上昇と言うことになる。

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