2010年07月20日

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ストラテジーブレティン 第20号

日本株式をさらに傷める通貨高

円高・株安の同時進行

日本株式独歩安が顕著である。ギリシャ危機以降の主要国の株価(ギリシャ危機前ピーク比)を見ると、日本株式は-17%、米国-12%、ドイツ-5%、韓国-1%と大きく差が付いてしまった。その最大の原因は奇妙な円高が進行しているからであろう。日本は韓国、台湾など周辺アジア諸国との比較で競争力が低下している。貿易黒字が相当縮小していることからすれば、2009年の購買力平価(GDPベース)が115円/ドルなので120円でもおかしくない。また短命政権の頻発に見られる弱小政治力、世界最大級の財政赤字、人口減少、など円を好評価することは難しい。しかしギリシャ危機以降円は独歩高、世界最強通貨である。OECD統計によると日本円は購買力平価に対して39%強の過大評価、韓国ウォンは22%の過小評価となっている。また中国元は40%以上の過小評価とされている。日本企業は著しく不利な状況となっている。 脆弱国日本円はなぜ強いのか。最大の理由はデフレにより実質金利が高いからであろう。同じゼロ金利でも物価格差により円はドルより2%の実質金利高となっている。経済が弱い故にデフレとなりそれが通貨を強めて更なる景気の脆弱性を招く、日本はそうした悪循環に陥りかけている。

デフレが円高を一層進める

もともと為替には自己実現性があり、一方方向のスパイラルに陥る危険性があり、それは相場水準のオーバーシュートをもたらすことに注意が必要である。円高でも円安でも、ひとたび一方向に揺れると円高(円安)が更なる円高(円安)の原因を作り、円高(円安)に弾みがつくという傾向である。円高→デフレ・実質金利高→一段の円高、円安→インフレ・実質金利低→一段の円安、という悪循環である。それは為替変動を極端にし、経済の持続性・サステイナナビリティーを阻害するので望ましくない。従って適度の為替介入は必要である。また日本の現状を考えた場合、購買力平価(2009年115円/ドル)に収斂する適度の円安水準が望ましい。それを実現する為替政策・金融政策が望まれる。

日銀に政策余地大

その点で日銀に努力の余地があるかもしれない。欧米の中央銀行は金融危機後の非伝統的金融政策発動によりバランスシートを1.5から2倍に膨張させ、リスク資産を買い入れた。比較的おとなしい日銀との中央銀行の行動格差が円高センチメントを一層強めている可能性もある。今や円は世界最強の安全通貨とされ、世界経済の危機感が高まれば一段と買われてしまう。それは日本経済と株式を二重に痛打する。執拗に為替介入を続けるスイス中銀に見るごとく、日本当局にも次の一手が求められるところである。

各国政策陣取り合戦

否定できないグローバルゼーションの潮流の前に、各国の政策競争は熾烈である。かつての国際競争は企業間の戦いであったが、今の国際競争はグローバル経済の中での各国の場所取り争いである。各国は企業に有利な税制、産業立地優遇、有利な為替誘導、国家ぐるみのプロジェクト輸出、など重商主義ともとれる自国優位の政策を恥ずかしげもなく押し出す時代となっている。特に香港、シンガポール、ドバイ、韓国など小国は比較的容易に対応してきたが、大国は巨船故に転換が困難であり中でも日本が最も遅れている。従来の常識にとらわれず、政策の枠組みを広げる試みが検討される時かもしれない。

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