2010年08月19日

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ストラテジーブレティン 第24号

史上空前の資本余剰、3つの出口しかない
~①流動性の選好(日本病) ②過剰設備投資 ③資産価格上昇~

危機前も危機後も空前の資金余剰、運用難

ITバブル崩壊、サブプライム危機、リーマンショック、ギリシャ危機と金融ショックが常態化しつつある中で、変わらぬ一つの事実が明白になっている。それは資本過剰と言うことである。2005年当時のFRB議長グリーンスパン氏は金融引き締め下、景気拡大局面での長期金利の異例の低水準状態を「謎(conundrum)」と指摘したが、それは潤沢な資本余剰がもたらしたものであった。バーナンキ現FRB議長はその原因を「世界的貯蓄余剰(global saving glut)」つまり新興国や日本など海外(米国の外)で金融危機のトラウマ、人口動態など様々な理由で貯蓄余剰が起き、それが余剰資金となって米国長期金利を押し下げている、と説明した。

シーゲル教授の「債券バブル」論

サブプライム危機、リーマンショックによる資産価格の大暴落と極端なリスク回避、デレバレッジにより、一旦資本余剰は消滅したと思われた。しかし危機が沈静化した時点で、再度資本余剰が顕在化している。需要の落ち込みにより、債務国米国ですら家計も企業も大幅な貯蓄余剰となった。確かに政府部門の赤字が世界的に大拡大しているが、それでは吸収しきれない金余り状態である。 ギリシャ危機を口実に米国、イギリス、日本などの大国も財政破綻するというソブリンリスク論が花盛りだが、それとは裏腹に、米英日ともに政府の借金コストである長期金利が大幅な低下の一途を辿っている。8/19/2010付のウォールストリート・ジャーナル紙は「今壮大な債券バブルが発生している」とするPennsylvania大学のジェーミー・シーゲル教授の論文を掲載している。

資本余剰の原因は資本生産性の向上(当社の主張)

この資本余剰の原因は何か。①過剰な金融緩和によるものなのか、②バーナンキ説のような世界的貯蓄余剰なのか、③生産性向上による企業利潤率の上昇によるもの(当社見解)なのか。一般論としては、①の過剰金融緩和説が受け入れられているようである。過去の資本余剰はグリーンスパン前FRB議長による過剰な金融緩和によるもので、それがサブプライムバブルをもたらした、と解釈されてきた。また現在は危機対応の異例の金融緩和が資本余剰をもたらしている、と見なされている。その分析は別に論じるとして、どのような原因によるにせよ、この資本余剰は当分解消しないことは明らかである。

第一の行先、際限ないリスク回避=流動性選好(日本病)

それでは余剰資本はどのように使われるか。行先は3つしかない。第一は際限のないリスク回避の下で、現金、国債に滞留する可能性である。それは日本の失われた20年が辿った道である。1996年3%を切ってきた日本国債の利回りを見て、タイガー、ソロスなどグローバルヘッジファンドは日本国債はバブル化したとして一斉に日本国債を売り建てた、が結果は無残であった。長期デフレの結果利回り3%割れの国債は、絶好の買い場だったのであり、その2年後には国債利回りは1%以下まで低下した。(図表1参照)

第二の行先、過剰設備投資

第二はただでさえ稼働率が低い状況で更なる過剰な過度の設備投資に資金が向かい、需給ギャップを更に拡大させる可能性である。それは実体経済面からデフレを定着化させる。

第三の行先、株式、不動産投資

第三の唯一の望ましい資本の行先は、金融資産投資である。資産価格は押し上げられ、株や不動産などの資産効果がやがて消費需要を活性化させるだろう。資本余剰が所与のものである限り、政策当局はそれを金融資産投資に振り向け、資産価格を押し上げる方向(第三の行先)に誘導するほかはない。バーナンキ議長率いるFRBが非伝統的金融政策を遂行し、資産購入を図っているその先の狙いは、株式など資産価格の上昇にあることは明らかではないか。バーナンキ議長が真に戦っている相手は「日本病」、日本が陥った究極の「流動性のわな」、リスク回避、アニマルスピリットの喪失である。

米国の高収益・高配当が株式投資の誘因に

幸いファンダメンタルズからみた米国株式の割安さは顕著である。上述のシーゲル論文では、10大米国高配当企業(AT&T、エクソンモービル、シェブロン、プロクターアンドギャンブル、ジョンソンアンドジョンソン、ベライゾンコミュニケーションズ、フィリップモーリス、ファイザー、GE、メルク)の平均配当率は4%で、物価連動10年国債(TIPS)利回りを3%、10年国債利回りを1%も上回っている、としている。

日本の1996年、リストラ遅れ企業収益は悪化傾向 ←米国との根本的相違

国債利回りが3%を下回りデフレ墜落の直前にあった1996年の日本と、現在の米国との決定的相違は、株高を支える企業収益である。当時の日本企業は固定費が増加し続けるなどリストラが遅れ、(円高の定着もあって)企業収益悪化が進行した。それに対して米国では迅速なリストラと労働生産性の向上により、企業収益は過去ピーク近辺までの鋭角回復を見せている。(図表2参照)1996年の日本の長期金利は、経済全体のデフレ化と資本収益性悪化に連動したものだったのであるが、現在の米国の金利低下はそれとは正反対の資本収益性改善の下で起こっている。つまり1996年の日本と異なり、合理性に基づいて株価が上昇できる環境にあると言える。

今の日本株も非理性的なほど割安

もちろん1996年と異なり、今の日本は長期金利が0.9%と低下する一方企業収益は大きく回復しており(配当利回り2%、益回り6%、PBR1倍)と株価は、非理性的と思われるほど割安である。

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