2010年09月01日

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ストラテジーブレティン 第27号

円高阻止で世界デフレを食い止めよ
~為替介入で世界に流動性の供給を~

ネガティブな資金移動がもたらす円高

資金移動には正常なものとネガティブなものとがある。正常なそれは、よりリターンの高い分野に資金が移動し、経済効率を極大化させる。ネガティブなそれは、リターンの追求を諦め、元本の保全に専念する投資行動で経済成長を阻害する。今の円高をもたらしている資金移動はどう見ても、高いリターンを求めた建設的資金移動の結果には見えない。ただでさえ投資需要が冷え込み潤沢な資本が有効に活用されておらず、長期金利が1%を下回っている日本への資金流入は、純粋な投機需要によるものであろう。その根拠はと言えば、自己実現的な円高を前提としているとしか思えない。

円高は「グローバルデフレシナリオ」のシンボル

そうしたネガティブな資金移動は、国際金融市場が再度織り込み始めた「グローバルデフレシナリオ」に基づいたものであろう。米国経済の持続回復に、黄色信号が灯っている。雇用の回復が進まない中で、住宅価格再下落の恐れが出てきた。中国経済の減速、欧州での金融不安の再燃なども加わり、国際金融市場は再度「グローバルデフレシナリオ」の織り込みにかかったように見える。そうなると条件反射的に、円高が進行する。

危機深化=円高、の条件反射

日本は韓国、台湾など周辺アジア諸国との比較で競争力が低下している。貿易黒字がだいぶ縮小していることからすれば、2009年の購買力平価(OECD、GDPベース)115円/ドルであってもおかしくない。しかし金融危機が起こるたびに円は独歩高、世界最強通貨である。OECD統計(2010年6月時点)によると日本円は米ドルの購買力平価に対して41%強の過大評価、ドイツ6%の過大評価、韓国ウォンは25%の過小評価となっている。また中国元は40%以上の過小評価とされている。 脆弱国通貨の日本円が選好される第一の理由は、デフレによる実質金利高である。同じゼロ金利でも物価格差により円はドルより2%の実質金利高となっている。経済が弱い故にデフレとなり、それが通貨を強めて更なる景気の脆弱性を招く、日本はそうした悪循環にはまりかけている。第二に、通貨当局がデフレ親和的との信仰が定着している。第三に、日本円は過去20年常に世界最強であり、円投機は報われ続けた。こうしたことから、世界金融危機深化=日本円選好は、世界の投資家の間で条件反射となっているのである。

為替介入で国際流動性の供給を

円高は世界市場の弱い環である日本株を直撃し、日本の景気を押し下げる。また、世界から資金を吸い上げ各国のデフレを誘発する。円高は日本のみならず、世界デフレの一里塚なのである。従って、円投機を抑制し日本から世界に資金を還流させることは、世界デフレへの悪循環を断ち切るうえで、決定的に重要である。仮に日本が為替介入で30兆円、3500億ドルの米国国債を購入すれば、現在検討中のFRBの追加金融緩和策を大きく支えるものとなる。円高阻止の国際協調の構築は、日本のエゴではなく世界の利益なのである。 2003年の円高阻止の30兆円の巨額為替介入は、日本から世界への流動性の供給となり、世界経済を活性化させ、更にはバブルをもたらしたとの評価がある。日本の為替介入は日本による国際金融緩和への貢献といえるのである。今回も、日本の不胎化為替介入→円安→円流動性の供給→日本株高という展開が実現出来れば、世界デフレ阻止に貢献する大きな力となるだろう。

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