2010年10月14日

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ストラテジーブレティン 第33号

QE2、世界的流動性相場に

QE2は成功するか、適切か

FRBの前人未到の大実験、QE2(量的金融緩和第二弾)が始まろうとしている。雇用回復の緩慢さから景気回復の持続性に不安が高まっているが、それを断ち切るために、FRBが直接資産価格に働きかけ、期待(心理)を改善させようとする試みである。FRBが5000億ドルから1兆ドルの規模で長期米国債を購入すれば、ポートフォリオリバランス効果を通じて資産価格全般を押し上げると期待されている。第一弾の量的緩和QE1はサブプライム危機の直後に実施された。FRBのバランスシートを3倍に膨張させての住宅ローン債権などの資産購入は崩壊状態にあった資本市場を立ち直らせ、金融を正常化するという大きな成果を残した。が、FRBが資本市場に介入することは過去の教科書的理解からすれば禁じ手である。QE1は大恐慌の淵という緊急事態であった故に許された禁じ手を、なぜ再び今使うのか。それほど危機が進行している、禁じ手に追い込まれるほど手詰まりになっているとの見方もある。

QE2は失敗するという悲観論は米国の調整進展を軽視している

過剰な金融緩和はゾンビを延命させ必要な調整を先送りし、事態を悪化させるという議論(1990年代の日本で盛んであった)は、ラインハート夫妻など、悲観論者が主張している。この見方は米国ファンダメンタルズの急速な調整進展を無視している。これまでレポートしているように現在米国では企業も家計も住宅も調整はほぼ完了し贅肉は完全にそぎ落とされている。また経済のエンジンである企業利益は大きく回復し企業は空前の資金余剰の状態にある。ただ雇用回復は依然低調で、故に消費回復も緩慢、在庫投資一巡後の経済成長は一時的に鈍化しているのである。しかし景気回復の初期に雇用回復が停滞するのは珍しいことではない。過去平均では雇用が増え始めるのは景気回復後9カ月たってからである。特に今回は①グローバリゼーション、②インターネット革命により生産性が大きく上昇しておりjobless recovery =productivity recoveryが進行しているのである。5月以降、株価下落⇒心理悪化⇒貯蓄率上昇⇒消費鈍化という傾向が現れたが、株価の下落が食い止められている限りにおいて心配はいらない、と言える。今の米国に必要なのは、雇用拡大という主エンジンに点火するまでの時間、心理が萎えないための保険なのである。

QE2は禁じ手との考え方が古い!?

バランスシートを使って国債、ETFやREITなど金融資産そのものに投資すること、つまり資産価格に直接影響を与えるための試みは禁じ手なのだろうか。中央銀行による明白なリスク資産への働きかけは、古い教科書にとらわれている論者からは禁じ手との批判も寄せられる。しかし、①顕著な資産価格の「マイナスのバブル=資産デフレ」化があたかも経済の癌細胞のようになっていること、②直接金融化により資産価格のレベルが信用創造に直結する時代に入っていること、③資産価格は心理(期待)を体現しており、資産価格の変化(特に株高)は景気回復の緒動として不可欠なこと、などの新しい現実がある。この新しい現実にFRBは直接向き合ってきたと言える。これは中央銀行の歴史の新段階を画すものと言えるかもしれない。

各国中央銀行の保有する国債は安全資産か

そもそも中央銀行は通貨という負債を国債という安全資産を保有することで発行している主体である。国債はリスクフリーで値下がりがない故健全であるということは、今では神話にすぎないことが明らかである。例えば日銀は77兆円の銀行券発行とほぼ同額の日本国債を保有しているが、その3分の2は長期国債であり、金利変動リスクを負っている。厳格な時価会計を迫られれば大きな資産評価損失が発生する可能性はある。つまり中央銀行と言えどもリスクフリーではないのであり、そのリスクテイクの中身は環境と政策の目的によって変化しうるものだと言える。

QE2は世界金融緩和の先がけに

米国ではQE2がほぼ確かになったことで株高、商品高、米国債高(長期金利低下)、ドル安が進行している。これは矛盾である。株高・商品高はインフレシナリオの、金利低下はデフレシナリオの下での選好であり両立しない。さしあたってFRBの米国国債購入が長期金利を引き下げるであろうが、いずれその先にある景気持続回復、インフレシナリオの定着を織り込むはずである。またQE2に伴って進行するドル安=各国通貨高は、米国以外の中央銀行に対する金融緩和圧力を強める。既に日銀はバランスシートを使ってETFやREITなど金融資産そのものに投資する新量的金融緩和に踏み切ったが、他の中央銀行もそれに追随する可能性が強い。QE2は対デフレ戦争のための世界金融当局の共同戦線構築のきっかけとなる可能性が強い。 日本株式はQE2イコール円高と見て、世界の中では一人低調である。しかし、米国金融緩和は世界経済の持続回復を担保するものだとすれば、それは当然に日本株高要因である。米株高⇒米国景気回復が確かとなれば、投機の円高も終焉する。現在が日本株にとって長期転換点であるという見方を堅持したい。

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