2026年02月24日
ストラテジーブレティン 第396号
歴史的趨勢と高市改革と反動勢力
世界は大転換期にあり、今まで考えてもみなかったような、事が相次いで起きている。しかし良く目を凝らすと、大きな力が歴史の歯車を動かしていることが分かる。まず米国でのトランプ政権の誕生の背景にどのような歴史的歯車が動いているのか、考えてみよう。
進歩主義歴史観の死とトランプ氏の登場
かつて保守反動と言う言葉があった。ウィキペディアには次のように記載されている。「一切の改革や革新に反対する姿勢、行動のこと。左翼勢力が右翼勢力をさして批判的文脈で用いる(「保守反動」「右翼反動」など)」。その語源はフランス革命時代に、革命に反対する旧体制(アンシャン・レジーム)派を批判する立場から生まれた。
ウィキペディアは更に説明する。『この逆の“革新反動”といった表現は存在しない。革新は基本的に「進歩主義」だからである。マルクス主義の唯物史観の立場からは、人類社会は経済の発展段階に応じて資本主義社会から社会主義社会、共産主義社会へと発展するとしたため、この流れへの抵抗や歴史的逆行は反動主義とみなされる。社会民主主義、社会主義や共産主義では、帝国主義やファシズムを代表的な反動と位置付けた。一党独裁の共産主義国では、「反動」のレッテルを押された者の一部が粛清される場合があった。』
このような進歩主義歴史観は、いま検証の俎上に乗せられている。進歩主義の帰結が中国、ロシア、北朝鮮と言ったマルクス主義者が建国した国であり、専制・独裁国家化しているからである。このような専制国家が歴史的趨勢とは誰も考えたくもないであろう。
一方民主主義の揺籃器であった資本主義は深刻な危機に直面している。この危機に対応し資本主義を守り発展させる政治的潮流が台頭している。米国のトランプ改革や、日本の高市改革、欧州での極右ポピュリズムと言われるグループがそれに属する。
米国の資本主義は、①中国の圧倒的工業力、②失業を大規模に生み出すAI革命、③資本主義と相入れない極端なリベラル思想の蔓延、という3つの脅威に直面しこのままでは崩壊してしまうだろう。エマニュエル・トッド氏の「西洋の敗北」論* (文芸春秋社)を待つまでもない。誰もが成功できる希望の地であった米国において、歴史上はじめて、没落する巨大な階層が現れた。中国の台頭と工場の海外移転により、かつての工場労働者が没落中間層となり、その怒りがトランプ支持の中心をなしている。トランプ氏はそうした危機感をいち早く抱き、乱暴とも見える劇薬的政策を次々打ち出しているが、その根底にある認識は正当であろう。この大目的遂行のためには国際法違反や強権の行使など非常事態的対応は正当化される、とトランプ氏は考えているのであろう。第一期トランプ政権の4年間に株価は1.8倍になり、米国経済は先進国中で突出した高成長を続けたが、株価と経済成長は第二期トランプ政権でも続いている。この経済的成果はトランプ氏の変革が、成功する可能性があることを物語っている。その先にはトランプ氏が想定する米国資本主義の復活、強化というシナリオも十分にあり得る。武者リサーチは米国が衰弱し資本主義が崩壊するという可能性は、むしろ小さいと考えている。
*ドット氏の悲観論には、技術発展が信用創造を通して資本主義を進化させてきたという米国社会のしなやかさへの洞察が軽視されている。
日本における保守・ナショナリズム革命
驚きなのは、トランプ氏の変革と同類の歴史の歯車が日本で動き始めていることである。分断や格差が小さい日本では、トランプ現象は無縁である、と思われていた。しかし昨年夏の参院選挙で、自民・公明のリベラル中道政権が大敗し、保守系新興4野党が大勝した。保守系4野党の主張をまとめると、①反中・ナショナリズム、②積極財政による生活支援と成長重視、③反PC(ポリティカル・コレクトネス)、過度のリベラル主義反対、でありこれらはトランプ政権の主張と驚くほど似通っている。背景には日本にも働く世代の怒りがあったと考えられる。
日本の実質消費は過去10年間、世界で唯一落ち込んだ。デフレ経済の停滞の中で、著しい高負担により手取りが減少したためである。2012年にスタートした社会保障と税の一体改革の下で、国民負担率は38%(2011年)から48%(2022年)へと10年間で10%も上昇した。この高負担による生活困窮が、働く世代の怒りに火をつけたと言える。昨年夏の参院選挙比例区における世代別得票率シェアを比較すると保守系野党4党(国民民主、参政、日本保守、日本維新)が、既存3党(自民、公明、立憲民主)を現役世代の全ての世代において大きく上回った。ちなみに既成3党対新興保守野党4党の得票率シェアを見ると、10代(24対59)、20代(21対62)、30代(23対55)、40代(28対45)、50代(38対38)であった。これらの新興保守野党は、中国、ロシアなどの専制国家の脅威にも敏感で強いナショナリズム志向を持ち、戦後リベラリズムに対する批判も表明している。
このように、民意は中道・リベラルから保守・ナショナリズムへと大旋回していたのである。この民意の大旋回から全てが始まった。①昨年10月の自民党総裁選挙では少数派で筋金入りの保守政治家の高市氏を総裁に選出、その直後の、②公明党の連立離脱と自民・維新への連立の組み換え、③台湾有事に関する国会答弁を口実にした中国による高市政権に対する威圧・恫喝、④高市氏による解散総選挙実施、⑤立民、公明による中道改革連合の形成と流れは繋がっていく。
歴史的反動に堕ちた革新リベラル
自民党は連立相手を公明党から、日本維新に変えたことで、真性保守党に脱皮し生き残りを図ったともいえる。選挙で大勝した高市氏は自民党内のリベラル系の反対派を抑える十分な信任を得た。高市政権は最低でも3年以上の長期政権となり、日本の保守革命を遂行していくだろう。昨秋からの高市当選後以降の株高は、高市政権の変革対する期待を示している。
この流れを既存メディアや学者、評論家など知的エリートは全く読めなかった。日本も世論形成の主役は情報エリートや既存メディアではなく、ネット・SNSの時代に入っていたのである。
このように見てくると立憲民主・公明の合体による中道改革連合がいかに歴史的流れに背く反動的なものかがわかる。民意がリベラルから保守に流れる中で、あえて右傾化への危機を強調したのであるから初めから成功はおぼつかなかった。どさくさに紛れて立憲民主が安保法制反対などの従来のリベラル路線を捨てる挙に出たことは、戦後民主主義を支えたリベラル思想が完全に時代の遺物(=革新反動)になったことを示唆している。
代案なく、間違い続けたアベノミクス批判派
歴史の趨勢に背くあと一つの動きが、経済政策に関する反積極経済政策キャンペーンである。高市圧勝が明らかになったころから読売、日経、文芸春秋などほぼすべてのオールドメディアでてなされている、反減税キャンペーンは高市積極財政路線に対する抵抗と言ってよい。日本の政府債務は世界最悪、ギリシャより悪いという間違った事実を根拠に、減税をすれば、金利が上昇する、円が暴落する、イギリスで起きたトラスショックが再現される、と危機感があおられている。1月末長期金利が2.3%へと上昇し円安が159円に迫る場面もあったが、それと財政政策とはほとんど関係ないのに、危機感があおられた。
これまで反リフレ(積極経済政)派は、アベノミクス批判から始まって、日本経済の分析と処方を間違い続けてきた。黒田日銀の異次元の金融緩和を「大規模緩和は全てが間違い」(2025.1.11朝日新聞)と斬り捨てる吉川洋東大名誉教授は、再度日経新聞に登場し「消費税は所得の多い人ほどたくさん納めている。減税すれば、富裕層ほど恩恵は大きく低所得者への対策とはならず物価高対策でない。債務残高のGDP比の低下はインフレで低下しているだけでまやかしだ、財政問題を成長頼みで改善を図ろうとするのは危うい」(2026.2.14)と不正確な現状認識に基づき減税を全否定したが、ではどうすれば国民生活が救済できるのか、何の代案も対置していない。
アベノミクス批判の主唱者である白川元日銀総裁は日本の停滞はデフレでなく、人口減少や生産性低下に原因があり、金融緩和は根本的な解決策にはならない。そもそも金融緩和は将来需要の前倒しに過ぎず付加価値の創出ではないと、金融緩和無効論を主張し続けてきた。
この人達は、①株価が10年間で5倍に上昇し、株式時価総額を300兆円から1200兆円へと増加させ、経済の牽引車になったこと、②大幅な円安がデフレ脱却と企業収益の劇的向上をもたらしたこと、③人口減少下の日本でもデフレ脱却が可能となり、利益、株価、税収の改善をもたらしたこと、等を全く予想できなかった。彼らのアドバイスに従っていたら、株式投資も企業経営も大失敗していただろう。
円安ほくほく論批判の反動性
みずほ総研の高市首相の円安ほくほく発言を批判したレポートが話題になった。高市氏の演説は「民主党時代の超円高で企業が海外に出て行ってしまった。円安になると国内に工場が戻ってくるという認識が貫かれており」これが間違いだ、前時代的発想だと批判している。武者リサーチはこのレポートの発想こそ大間違いの議論である、と主張したい。日本の空洞化の諸悪の根源は超円高にあり、逆に1ドル100円から150円まで進行した円安が、日本のデフレ脱却、企業収益の急回復、顕著な株高、税収の大幅な増加をもたらしていると言って過言ではない。そうした見解をみずほ総研レポートは、2024年財務省の有識者懇談会「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」で一蹴された前時代的発想であると錦の御旗を振る。しかしこの財務省の有識者会議こそ、財務省の覚えめでたい学者とエコノミストを呼び集めて官製発表を行ったものであり、歴史的洞察を欠いた表面的議論が展開されている。過度の金融引き締めが円高をもたらし企業の競争力を破壊したこと、財政緊縮路線が国内需要を壊し企業の海外投資を促進したこと等、重要な事実には全く触れられていない。財務省と大手メディアとそれに追随する学者やエコノミストが大手をふるう経済論壇の多数派が正論である、と言わんばかりのみずほレポートの主張は、高市氏の積極的財政金融政策「高圧経済政策」と真っ向からぶつかる。
これから実施される高市氏の高圧経済政策が正しいか、それに対して批判を続けている経済学者、エコノミスト、大手メディアの多数派が正しいのか。武者リサーチは高市経済政策批判派が間違っており、高市政権成立後の株高はそれを証明していると考える。最後まで誤りを認めなかった「中道革新連合」と同様に、謬論を垂れ流す高市経済政策批判派は、歴史の遺物となっていくのではないだろうか。
