2012年03月21日

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ストラテジーブレティン 第66号

債券の時代から株の時代へ
~空前のリスクプレミアムを是正する金利裁定始動~

米国市場では株高の進展とともに2月以降債券下落が顕著に

米国市場で持続的株価上昇が続く中で債券が顕著に売られ始めた。10年国債の利回りはボトム1.82%(1月31日)から直近では2.38%(3月19日)へ、2年債は0.21%(1月27日)から0.41%(3月14日)へとなり、2012年の年初で長期にわたる金利低下は底入れしたとの見方が強まっている(図表1)。恐慌の危機の消滅、景気の持続拡大という確信から、「安全への逃避(flight to quality)」が逆回転し始め、大きな資金移動が起こり始めたと考えられる。1980年以降30年の長期にわたって米国長期金利は15%から2%以下へと歴史的低下を見せ(図表2参照)、それは空前の債券のブル相場となったのだが、それが終焉した可能性が強い。債券の時代が終焉したとなれば、次は株の時代である。図表3により10年ごとの米国株のパフォーマンスを見ると、2000年から2009年の10年間は史上最悪の株価の時代であったことが分かるが、それが終わったと考えられる。 図表1:米国国債10年債、2年債利回り 図表2:米国消費者物価指数と10年債利回り 図表3:1870年代以降の10年ごとの米国株価上昇率 図表4:米国配当+バイバック利回りと社債利回り

社債発行、自社株買いで企業が金利裁定を主導

米国で顕在化しはじめた資金の大移動は、異常なリスクプレミアムを是正する動きと言える。過去最大の規模まで拡大したAリスクフリー資産リターン(10年国債利回り)とBリスク資産リターン(その代表は株式の益回り)のギャップが、資金がAからBへシフトすることによって埋められ始めたと見られる。その動きの中心は企業である。企業は空前の資金余剰を抱えているにもかかわらず、過去最低の金利環境下で社債発行を過去最高水準まで膨らませている。そうした資金は自社株買いに投入される。たとえば1000億ドルという巨額の余剰資金を持つアップルは3月19日今後3年間で450億ドルの株主還元(そのうち100億ドルは自社株買い)を行うと発表したが、それは企業の余剰が株式資本に投入される好例である。こうした企業のリスクプレミアムを引き下げるイニシアティブ、つまりアップルなど高収益企業が稼いだ金が経済過程に循環させる動きが、米国の市場が活力を持つ一つの大きな要因となるのである。 これに対する好対照の事例はここ10年来の日本である。企業は好業績により潤沢な内部資金を積み上げているにもかかわらず、それは自社株買いやリスク資産投資に向かわず、大幅なリスクプレミアムが全く解消されてこなかった。 かねてから議論しているように、異常なリスク回避=高リスクプレミアムはいずれ是正される。そしてその経路は以下の3つしかない。①大不況による企業収益、配当の激減、②インフレ、通貨安による金利急騰、③株価急騰、であるが、今の米国では③の可能性が濃厚になってきたということである。

ドルの長期トレンド転換

以上のような景気の堅調さ、金利の上昇、株価上昇と言う条件下においては、ドル相場の大転換をもたらす。図表5の長期ドル循環で明らかなように、2002年から2011年まで10年続いたドル安局面もまた終わったということである。 図表5: ドル実質実効為替レート推移

日本も追随へ、債券から株へ

まだ日本では金利裁定は微弱、米国ほどの金利上昇は起きていない。長期金利は昨年来のボトム0.95%からは0.1%の上昇にとどまっている。企業の社債発行も自社株買いも小さく、金利裁定を引き起こす力はない。しかし図表6に見るように、日本の投資家は異常にリスク回避偏重であり(国債をたっぷり保有)しており、株式などリスク資産の保有比率は著しく低い。従って一度リスクフリー資産(国債)からの資金流出が起き始めると極端な株高、円安を誘導する可能性があることに留意したい。 図表6:機関投資家の資産配分 世界対日本

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