2012年09月03日

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ストラテジーブレティン 第77号

半導体の壊滅から日本は何を学ぶか
~ 日銀、政府は産業の慟哭が聞こえるか ~

● 20年前世界最強を誇った日本の半導体産業がほぼ壊滅、危機は他の産業分野に蔓延しようとしている。産業集積は一度失われたら取り戻せない。 ● 仲間内主義に捕らわれた企業経営・企業統治が一因、しかし超円高・デフレなど不適切な金融・経済政策が危機を決定的にした。 ● 日銀・政府は日本の産業集積の崩壊に責を負え。 日本の産業集積の崩壊が始まった!!

日本の産業集積が音を立てて崩れつつある。素材からエレクトロニクス・機械・自動車までほとんど全ての産業分野をカバーするフルセット型の産業構造が日本の強みかつ特徴であった。膨大なシナジー効果が発揮され自動車・エレクトロニクスの成功が部品・素材・装置等膨大な産業のすそ野を形成し、世界最大の産業強国になった。1980年代半ばから2000年ごろまで、日本は世界の貿易黒字を一手に引き受ける圧倒的な産業強国であった。 しかし時代は変わった。ここにきて産業の衰退が否定できないトレンドになりつつある。かつて「産業のコメ」と言われていた半導体は存亡の淵にある。過当競争の反省から、日本の大手半導体メーカーはDRAMのエルピーダメモリーと論理IC中心のルネサスエレクトロニクスの2社に集約されたが、この二社が事実上破たんし外資傘下に入ろうとしている。公的資金が注入されたにもかかわらず倒産したエルピーダは、米マイクロンテクノロジーに身売りされ、ルネサスは米国の買収ファンドKKRに買われようとしている。20年前世界最強であった日の丸半導体の壊滅である。 図表1:世界の半導体地域別売上シェア 図表2:主要通貨の対円レート推移

半導体壊滅・エレクトロニクス存亡の危機

テレビ・VTR・オーディオなどの民生用エレクトロニクスでも圧倒的世界シェアを誇っていたのも今は昔、薄型テレビではサムスン、LGの先行を許し、新世代の有機ELでは韓国勢の背中すら見えなくなった。今ブームとなった最先端のスマートフォン、タブレットでは日本企業の顔も見えない。ソニー、パナソニックなど民生用エレクトロニクスメーカーは軒並み大赤字に陥り大リストラを余儀なくされ、シャープに至ってはEMS(OEM生産請負)メーカー、ホンハイに出資を依頼している。

ハイテク素材・部品・装置も他山の石ではない

でも大丈夫だ、半導体DRAM、薄型テレビなどコモディティー化した最終製品では敗退しても、それに使われる部品、ハイテク素材、それを作る機械・装置などは圧倒的に日本メーカーが強い、との主張がこれまでは可能であった。そうしたハイテク素材・部品・装置の輸出により日本の対韓国、対台湾などアジア向け貿易収支は大幅な出超であった。しかしそのハイテク素材・部品・装置にも暗雲がたちこめている。ハイテク機械の花形、半導体製造装置における日本の独壇場は2000年ごろまで。中枢デバイスである露光装置は日本メーカーキャノン、ニコンが圧倒的であったが、オランダメーカーASMLが新世代の機種開発で先行し圧倒的シェアを握っている。更にASMLにインテルが資本参加し開発資金を提供、それにサムスンと台湾の最大手TSMCが加わり、次世代装置開発の大コンソーシアムが築かれ、日本メーカーは完全に蚊帳の外に置かれてしまった。ルネサスは世界の自動車用マイコンで42%の高シェアを持っているが、その技術流出も懸念されている。シナジーが崩れようとしているのだ。 同様の日本の凋落は太陽電池、鉄鋼、エチレン、造船へと広がっている。原発稼働凍結による代替化石燃料の輸入で日本の貿易収支はとうとう大幅赤字に転落してしまった。

決定的な超円高・デフレなど誤政策 + 仲間内主義の企業体質

二大要因が考えられる。極端な円高による競争力の喪失、デフレによる経営の頽廃、日本国内の不適切な資源配分、国益無視の産業政策などマクロの問題が一つ。超円高とデフレは日本企業の活力を決定的に奪っている。米・英・ユーロ・韓国・中国・スイスなど各国政府と中央銀行が金融政策、為替政策を総動員して通貨高とデフレを回避しようとしている時に、「これ以上出来ることはありません、それはわれわれの領域ではありません」とうそぶく日本の当局の「鈍感さ・無責任さ」は際立っている。 日本企業の世界標準で戦えない仲間内主義があと一つ。日本の企業統治と経営判断に決定的欠陥があるようだ。企業内でも産業間でも若々しい部門に資源が配分されず、老いた巨木が若い芽を摘む構造が変わらない。リスク回避に凝り固まった貯蓄者の資金が国債と問題企業への貸し出しとして機能し、間接金融が電力などの成熟企業への銀行貸出として復活する。 19世紀初頭世界最強の産業国家だったイギリスが通貨高とデフレであっという間に凋落した二の舞を日本が犯しかねない情勢である。日本の企業と政策当局の覚醒が必須である。

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