2013年02月04日

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ストラテジーブレティン 第90号

アベノミクスを成功させる米国事情

当社の株価展望・・・年内は期待で、来年は成果で日本株の高騰が続く

安倍首相のイニシャティブは成功しつつある。首相のリフレ政策が遂行されることは確実。円安株高のトレンドは2013年いっぱい続き、壮大な株高になるだろう。安倍首相が画期的と評価した1月22日の「政府と日銀の共同声明」は日銀に具体的責務を与えておらず、日銀の緩和ポーズでお茶を濁されるのでは、と一瞬懸念された。しかし、直後の首相の対応(日銀総裁指名要件として「確固たる決意・能力でデフレ脱却という課題に取り組んでいく人」と言明、「日銀法改正は依然視野に」とも言明)は、その懸念を打ち消した。 次の焦点は、アベノミクスにより本当にデフレが解消され日本が成長軌道に戻れるかだが、結果がついてくれば翌2014年の株価も明るい。金融政策だけではデフレ脱却も日本の構造変革もできないとの見方が強いが、当社は金融政策がデフレ脱却と構造変革にとって決定的と考える。よってアベノミクスは結果を出せる。つまり現在の株高は長期上昇波動の入口に過ぎないと考える(なぜデフレ脱却が構造政策になるのかは、別途レポート予定)。 先週末、米国株式(ダウ工業株)が14,010ドル、史上最高値(2007年10月9日の14,164ドル)にあと1%に迫り、近々最高値を更新する可能性が高まっている。それは米国経済の本格回復の証としてのみならず、新成長時代に入った可能性として議論がなされていくだろう。FOMC(連邦公開市場委員会)声明の変化も注目される。米国経済の復活とドル高はアベノミクスの絶好の支えとなる。中国の台頭を睨んだ日米同盟の強化もアベノミクスの支えである。 図表1:日米株価推移 図表2:主要国通貨の対円レート推移

なぜアベノミクスは好スタートが切れたのか

昨年11月総選挙が決まった直後から、2カ月余りで日経平均株価は30%急騰、円は15%の急落となった。安倍氏が首班となって打ち出すであろう経済政策「アベノミクス」が市場心理を大転換させたのである。それまでの株価が異常割安であり、円が世界に突出して異常に高かったということがあるにせよ、この急変は人々の予想を大きく上回るものであった。劇的政策姿勢の変化により期待を大きく転換させたということで、第一幕は大きく成功したと言える。 但し、このまま株高円安が続き、日本は本当にデフレから脱却できるのか、依然懐疑論も強い。これまで何度もあった偽りの夜明けに懲りた投資家が、簡単にはトレンド転換を確信できないのは無理もない。また円が15%安くなっただけで、韓国中銀総裁、バイトマンドイツ連銀総裁、米国自動車工業会等から為替誘導批判が続出している。国内でもメディアや多くの経済学者、エコノミスト、経済界の一部や自民党幹部の中にさえ、安倍氏の日銀に対する圧力に批判が続出した。アベノミクスは日本国内ですら、コンセンサスが取れているとは言い難かったのである。 それではなぜ安倍首相は断固としてアベノミクスを主張し、株式、為替市場を急展開させ、世論の風向きを変えることができたのであろうか。その鍵は、やはり米国の支持であろう。輸出主導による雇用回復を狙うオバマ政権から円安ドル高批判が強く打ち出されれば、安倍首相の努力は水泡に帰したであろうが、米国当局からは一切そうした声は出てこなかった。

アベノミクス成否のカギを握る米国事情

今回こそは円高デフレ脱却に成功すると思われるのは、経済実態と地政学的理由の二要因により米国がそれを後押しすると考えられるからである。第一に、米国経済がいよいよ本格回復へと向かい、ドル相場が上昇トレドに入りつつある。懸念された財政の崖は棚上げ、先送りされ、焦点は①住宅需要の改善、価格の反転、②株高・住宅価格高による資産効果、③雇用増加(特にサービス産業)、④引き続き好調の企業収益(進展する新産業革命とグローバリゼーションのもとでの生産性の上昇が要因)、に移ってきた。 特に住宅の改善は大きい。住宅投資/GDP比率はリーマンショック以降6%から2%台まで低下し、ピーク比440万人の雇用の減少のうち5割の220万人が住宅・建設産業によるものであった。このガンであった住宅が正常化するだけでGDPは2~3%上乗せされる。住宅価格が上昇に転じ、低金利継続下で持家投資ブームが起きるだろう。住宅需給悪化の根本要因は2006年69%まで高まった持家比率が65%へと急低下したことにあったが、それが反転すれば需給は急激に改善する可能性がある。 シェールガス革命によるインフレ抑制、貿易赤字の縮小が見込まれることもプラス。2013年後半GDP成長率は4~5%を越えていく可能性もあるのではないか。雇用も2012年11、12月のデータが上方修正され、堅調。ISM受注指数など生産活動も着実に改善しつつある。2012年第4四半期のGDPはマイナス成長(-0.1%)となったが、それは一時的と考えられる。セクター別GDP寄与度は消費+1.5%、投資(設備+住宅)+1.2%であり、民需最終需要は3%成長ペースと好調である。ゼロ成長となったのは①国防支出減(寄与度-1.3%)、②在庫投資減(寄与度-1.3%)、③純輸出減(寄与度-0.3%)という一過性要因による。それは今後の成長率の反動増をもたらすことになろう。

注目されるFRBの声明の強気転換

そうなると米国で出口政策が視野に入る。先週のFOMCの声明変化が注目される。2012年12月の声明「十分な政策支援なしには雇用創造に十分な成長は困難」から、今回2013年1月は「適切な政策の下、まずまずの成長と失業率低下が続く」と大きくトーンが変わった。 景気回復とFRBによる国債購入の減少が起こればバブルと言われるほど低下してきた米国金利の急上昇は必至、それはドル高をもたらす。他方日本では、安倍首相と新規に登場するリフレ派の日銀総裁のリーダーシップにより遅れていた量的緩和が進行する。こうしてここ半年ぐらいの間に起きるであろう日米好対照の金融情勢は、円安ドル高を定着させる最も基本的な条件となる。 図表3:米国住宅投資対GDP比率推移 図表4:米国持家比率推移 第二に、米中新冷戦と言う地政学的要因により、日本経済の立て直しを通して日米同盟を強化することが米国の喫緊の課題になっている。つまり日本経済を傷めている円高デフレの解消を支援することが米国の国益にかなってきたという事情がある。安倍氏の日米同盟強化という安全保障上の主張は、円安遂行にとっても決定的であったと言える。 米国新首脳ケリー国務長官、ヘーゲル国防長官のスタンスはいまだ不明だが、アジアにおける中国のカウンターバランスとしての日本重視は不変であろう。中国を抑制し自己変革の圧力をかけ続けるためには、その隣国の日本のプレゼンスの高まりがバランス上求められることである。長期経済停滞により日本人が資本主義や市場経済に対する信頼を失い、漂流し始めれば、東アジアは大きく不安定化する。ここは日本経済の浮上が、覇権国米国にとっても緊要となってくる場面である。リチャード・アーミテージ元米国国務副長官やジョセフ・ナイ ハーバード大教授などの米戦略論のオピニオンリーダーは、日本のプレゼンスの低下、二級国への陥落を真剣に危惧している。それは(過去の異常な高競争力国日本に対する)ペナルティーとしての、極端な円高是正を容認する要因ともなる。 市場はアベノミクス遂行に自信を強めている。日本の株高はまだまだ続くであろう。 図表5:ドル実質実効レート推移

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