2018年01月11日

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投資ストラテジーの焦点 第303-part1号

2018年を読む ~ マクロとミクロ・技術邂逅の年
その1・講演部分

2017年11月27日開催(@紀尾井フォーラム)の 武者陵司・南川明氏のコラボセミナー

「2018年を読む ~ マクロとミクロ・技術邂逅の年」をリポートします。

はじめに(武者)

2018年はハイテック産業が注目される年になる。30年以上もエレクトロニクス産業のリサーチを追及してきたアナリスト南川氏が技術・ミクロの観点から、そして武者が経済・マクロの観点から産業を概観し、今起きているハイテック分野の転換を議論していきたい。日本でミクロ・技術の発展がマクロに決定的な浮揚力を与え始めている、と考えられるからである。そうした変化は過去30年ぶりのことである。

 

人類にとっての価値創造の源泉は技術の発展であり、それを基盤として数々の経済体制が現れては消えた。そしてそれぞれの時代の価値を創造する手段が特別に重要な資源になってきた。人類にとって宝となる貴重な資源は、石器時代の石から始まり、農業時代の土地、工業時代の資本と転変した。その技術は今や情報ネットの時代と新次元に入りつつあるように見える。それでは新時代のカギとなる富を作り出す源泉となる資源はネットか、知恵なのか或いは今まで通りの資本なのか、未知の時代に入っている。技術の発展は生産力を高め、人々を養う。石に一番価値があった石器時代は日本人の人口は約20万人前後であった。弥生時代以降、農業が発達し、土地が富を創造する手段となり、人口は数百万人に増えた。江戸時代には3千万人に到達した。工業の時代は資本が価値を作り出す源泉となり、そして人口は3千万人から今は1億2千万人になった。この先、大きな転換点が訪れていると考えるが、それには技術が鍵となる。

 

技術の発展が価値創造の在り方を根本的に変化させ、経済の仕組みを変え、企業のビジネスモデルと人々のライフスタイルを進化させていく。今そうした歴史認識に基づいて、技術と経済を見ていく視点が必須である。

技術の潮流を考えた上、それがそれぞれの国にどのような経済・市場をもたらすかを議論していきたい。 

南川 明 氏 の講演:2018年の技術動向とミクロ 

技術の大きな変化

これまではPCやスマホが世界のエレクトロニクスを牽引してきたが、近年それらの市場が伸びなく、場合によってはマイナス成長となっている。しかし、車や産業機器の分野でエレクトロニクスは発展している。牽引役が変わってきた。 

 

半導体産業では技術開発に大きな変化が起こっている。電子機器の中に使われている半導体は進化することによってパソコンの性能が上がり、スマホが小さくなり高機能になった、そしてテレビは薄く画質は向上した。その技術の最大の課題は微細化だった。しかし、小さく作ることが物理的な限界にきた。約10年で微細化は止まるであろう。代わりに三次元に縦に積んでいくことや省電力技術を開発する動きが進んでいる。

中国の台頭は注視していかなければならない。中国は資本力があるため、世界中から優秀な人間・技術を集めて、30年後は全て自分たちのものにしようという野望をもっている。 

その中、日本はどう生き残っていくのかを検証する。 

 

エレクトロニクス産業の歴史

第一の波は1990年代に個人がパソコンを持つようになり、エレクトロニクス産業は躍進した。第二の波は2000年代にスマホやタブレットが普及した。今や世界73億人のうち、約70億人がスマホを持っている計算になる。15年位の間に一気に世界中に広まった。しかし、これら製品の伸びは止まってしまった。伸びている分野はロボット、健康医療関係、産業機器、農業関係であり、これらの分野では益々エレクトロニクスが必要になる。更にIoT(Internet of Things)、全てのモノがインターネットに繋がっていく時代が到来する。それを支えていく5Gという通信インフラも発展していく。2020年頃に今の第4世代の通信インフラ4Gから次世代の5Gになる。注目点は、これまでの製品は個人や企業が持つものが多かったが、これから発展していく機器は個人・企業レベルではなく、もっと大規模な社会のインフラに必要となる。個人が買うものでなく、国や大企業が買うものになる。つまり、消費の動向が変わる。政府が買うということは国の政策で、農業に力を入れるなら、IoTを使って農業機器をスマートにし、無人作業を開発していく。例えば農業のロボット、IoTを使った工作機械、無人トラクター、無人ドローンで農地に肥料や水を撒く等を開発していく。これら国ベースのものは政府の規制緩和や優遇措置が伴ってくる。例えば中国では政策として電気自動車にかじを切った。個人でなく、国の動きを見て企業は予測していくようになる。 

*細かいことは触れませんが、電子機器の大きな流れの話をします。世界の電子機器はいろいろある。パソコン、データセンター、通信の基地局、スマホ、家電製品、ナビゲーションなど車関係の電子機器、ロボット(医療機器用)。コンピュータ産業は伸びなくなり、スマートフォンはそろそろ頭打ち、テレビに関しては、過去は大きく成長したが、今は伸びが小さくなっている。では何が伸びているか。まだインターネットに繋がっていない分野が今後伸びてくる。例えば、車、産業機器、更にIoTの主戦場になるのはオートメーション、ロボット、医療機器、電力設備、軍需関係。逆にコンピュータやスマホはインターネットに既に繋がっているため市場としては伸びない。まだインターネットに繋がっていない分野は今後どんどん繋がっていき、ビッグデータを活用し分析し、それぞれの分野でもっとスマートな事業に向かっていく。例えば医療ではセンサーを手首につけて血流や血糖値を観察することができるようになる。これは保険と連携することになる。今の日本の医療は病気になってから治療している。日本の医療費は年間40兆円程かかっている。15兆円程不足していて税金で補填している。日本の健康保険システムは崩壊している。他の先進国も崩壊している。これからのIoT技術でセンサーを体に付け、スマホで管理し、ビッグデータで分析し、大きな変化があったとき、患者に病院行くように連絡がくるようになる。これで糖尿病患者、心臓発作、脳梗塞で倒れる人が激減する。予防ができるようになり、健康に長く生きられるようになる。現在この仕組みを日本政府、保険業界はエレクトロニクスメーカーと話し合ってシステムを開発している。アメリカでも進んでおり、2020年前に導入するであろう。こういう事がIoTの一つである。しかしまだIoTの効果は世の中であまり表面化していなく、あと2・3年の時を経てIoTの効果は世界中で上がってくる。 

 

EV自動車に関して

日本のマスコミはあと10年15年すれば、自動車の20%-30%は電気自動車となると騒いでいるが、これは絶対有り得ない。2029年でも電気自動車の生産率は全体のせいぜい10%程度だと見ている。理由は電力が足りないからである。一般家庭が例えば日産のリーフを充電するとなると10時間かかる。つまり、例えば2030年頃に日本の自動車の半分である4000万台がEVにシフトしたと仮定すると、今の総電力のおよそ15%をEV車の充電に使うという計算になる。この15%は日本の原子力発電所3基分に相当する量であり、(世界規模で考えると30~40基)あと十数年でこの電力を補うプラントが構築されるとは考えにくい。これも普通充電で昼夜をとわず平均的に消費した場合を想定しており、もし夜間にこの充電を一斉に行うとなるとおおよそ倍の電力が必要になる。また、急速充電をする割合が増えるなら、仮に1/10の1時間で充足充電するなら10倍の電力供給能力が必要になる。つまり、日本で必要な原発は10倍の30基になってしまう。電力の観点から述べると、EVの販売台数をあと15年で2割3割にするのは理論的に無理である。自動車メーカーは宣伝効果としてEVを全面的に押しているのである。 

 

EVに大きくシフトするという政策を打ち出している中国は予定通り進むかもしれない。理由は、EV車両の方が部品点数が少なく、簡単に作れるからである。中国がガソリン車の優秀なエンジン、トランスミッション、ハイブリッドなどの複雑なパーツを作れるようになるには20年、30年かかる。中国の車メーカーはEVでゲームチェンジする必要がある。国の政策でもあるので実行するであろう。これからどんどん原子力発電所を作って、電力不足問題は中国国内で解決するつもりだろう。 

 

IoTで様々なモノがインターネットに繋がり、よりスマートな社会、医療、工場といったものができると言われている。しかし、IoTはなぜそんなに重要視されるのか。これをもう一回しっかり議論する。まず世界には3つの大きなトレンドがある。それは人口増加、高齢化、都市集中化である。それらが引き起こす様々な問題、環境汚染、医療不足、交通渋滞、資源の不足などがあり、これらを解決するのがIoTの技術なのである。国連が発表している数字では、1950年頃、たった65年前に世界の人口は25億人だった。今は73億人、三倍になった。日本だけでなく、他国でも高齢化は進んでいる。医療に於いては治療から予防に変えていかなければならない。都市集中化が進み、交通渋滞を引き起こし、環境破壊につながるので、もっとスマートな社会に変えていかなければならない。人口が増え、豊かな生活をしたいため多くの人が電子機器を使うようになる。電気、エネルギーの需要は上がっていく一方である。著しく需要が上がったのは最近で、中国とアジアの国々である。世界の電力供給能力は需要の15%位上にある。2025年頃から需要が急増し、世界中で停電が頻発する可能性がある。原発問題・CO2問題から発電所を作り発電供給能力を上げていくのは難しいので電力の需要を抑えていかなければならない。電気自動車の普及に電力供給は追いついていけない状態なのだ。 

 

従ってこれからは特に電力に注視しなければならない。エレクトロニクスの技術は性能を上げることによって電力消費をどんどん上がってきた。IBMのWatsonに代表されるスーパーコンピュータなど、これらは稼働させるのに原発三分の一位の大きな電力が必要になる。このままの推移だと2025年には需要に電力供給が追いつかなくなってしまう。そこでIoTを使い、省電力を目指す技術を開発しなければいけないのである。いろいろな国でエネルギーに関する政策、CO2削減の政策などがある。国の政策を見て先を読むことができる。各国の省エネ目標はすでに公表されており、それを達成するための政策が打ち出されている。多くの国がIoTを活用してエネルギー削減、資源節約、さまざまな産業の効率化を進めようとしている。これまでの電子機器と違うのは政策を伴った消費が期待されることだ。 

 

世界の電力の55%はモーターに消費されている。その内、モーターの力を自動で制御するインバーターが付いている産業機器はおよそ2割程度である。インバーターがないものはオンかオフだけになる。付けたらずっとつけたままになる。ここの改善をするだけでも30%以上も消費電力を下げる事ができる。国際電気標準会議IECではモーターの効率の規制を作っている。そして各国はそれを規制として取り入れ始めている。モーターにインバーターを付ける規制ができるかもしれない。今後は予測をするうえで国の政策を見ることが重要である。 

 

IoTで生み出されるデータ量がうなぎのぼりに増加

IoTの普及にともない世界中で生成されるビックデータ量は2015年現在の約6ゼタバイトから2020年には40ゼタバイトへと急増すると言われている。データ量が6倍以上になるが、データの圧縮やデータセンター間でのデータ交換などが大きいため、実際ストレージに保存しなければならないデータは4倍程度になると見ている。このデータを活用してこれまでは成し得なかった効率化を実現することがIoTの目指す世界になる。IoT普及によりビックデータ活用が普通になれば、より多くのサーバー、ストレージが必要になり、より多くの電力も必要となる。中間所得者層人口の増加で、これまで以上の電子機器の販売が期待できる。つまり電力需要はうなぎのぼりに増加するのだが、供給能力には限界がある。やはりIoTを活用してスマートな社会・交通・製造・医療・農業を行う事でエネルギー削減を期待することがエレクトロニクス業界では最大の課題になってくるであろう。 

 

AIチップ、人工知能、人間の脳に近い構造をもった半導体のプロセッサが注目されている。IBMとGoogleは既に作っている。他にもFacebook, Amazon, Appleも人工知能チップを開発している。あと3~5年すると人工知能チップが世の中にたくさんでてくる。性能を上げるために電力を大量に使うコンピュータは人間の脳に近い構造のチップを使えば、サーバーの消費電力は100分の一から1000分の一に抑えることができる。消費電力を下げる画期的な技術である。 

 

中国の話

2049年に建国100年を迎える。これに向けて世界一の経済大国、軍事大国を目指し、様々なことを推し進めようとしている。通信のインフラ。世界でも最も早いスピードで、この通信のインフラを5G化させている。この通信速度がIoTを広めるために必要だからである。その前に2025年までに一部の都市で自動運転を確立する。2030年までにはIoTを使ってスマートシティ、ゼロエミッションを目指している。一帯一路、シルクロード構想にともないスマートシティを作ろうとしている。 

なぜ中国が急速にこれを推し進めているのか。今現在は世界の電子機器の40%近くは中国での生産となっており、外貨を稼ぐ手段となっている。しかしこの40%は頭打ちであり、成長が止まってきている。10年間で人件費が4倍となっている。つまり製造という意味では競争力を無くしたのである。外貨を稼ぐために手段を考えなければいけない。よって自動運転、スマートシティをいち早く実現し、それをプロジェクトのまま海外にどんどん移植して行こうとしている。それを一帯一路経由して広めて行こうとしている。一帯一路に隣接する国々は約40カ国あり、人口は45億人、世界の6割を巻き込んだ構想であり、エレクトロニクス産業を巻き込もうとしている。中国はものごとを決めたら実現できる国である。CO2の排出も一気に下げる規制がもう決めている。 

 

日本のプレゼンス

パソコン産業では日本は負けた。テレビの産業も一時期はよかったが、すでに韓国メーカー、中国メーカーに奪われた。スマホに関しても同様。しかし、今土俵は変わり始めた。次は車、産業機器、IoT。日本は良い技術、良い材料、素材を持っている。半導体とは違う電子部品、コンデンサー、抵抗器、水晶、フィルタなど、日本は世界シェアNo.1である。半導体においてはトップの座ではないが、技術は保持している。薄膜技術という元々写真の技術で半導体の微細化ができている。電子部品は厚膜技術という元々は印刷の技術で作られており村田製作所、TDK、京セラなどのメーカーがある。それぞれの技術を持っているメーカーが融合し始めた。一緒に作ることによってより小さく、性能良く作ることができるのである。モーターにおいても日本は世界一である。日本電産、マブチモーター、ミネベアなどがある。身の回りの電子機器は、ほとんどが半導体、電子部品、そしてモーターが一緒に使われている。例としてはパソコンやスマホももちろんのこと、車やロボットも同様である。この3つの技術が非常に高い次元で揃っている国は、日本だけである。土俵が変わった今こそ、日本の各メーカーが協力し合って高い次元でこれら3つの技術を融合する事ができれば、今が非常にチャンスであると言えるだろう。更に、材料素材も世界一。メーカー同士が協力し合えば、絶大なチャンスがある。

 

 

 

武者 陵司 の講演:2018年の世界経済と市場のフレームワーク

2018年はとてつもなく良い年になると見ている。それはなぜか。まず、世界同時好況が世界的な株高をもたらしている。その中、日本の株価の水準訂正が大きく起ころうとしている。結論的には日経平均株価は4万円を超えてくると見ている。オリンピックの2020年にはそれくらいになる可能性が十分にある。その通過点として、2018年から2019年初頭にかけて日経平均株価は3万円台になるのではないか。現在、株式時価総額は600兆円だが、それが1200兆円となれば国民1人あたりの財産が500万円ほど増える。GDPと同じ位の富が増える。順調な世界経済と、値上がりする株価が日本の実体経済にフィードバックするという好循環がおそらく来年、再来年と大きく起こると確信している。その根拠を3点に絞って説明していく。第一は現在の世界景気同時拡大と世界的株高がいつまで続くのかに関して述べていく。第二は、今起こっている産業革命が経済や市場にどのような影響を及ぼすか。そしてそれをどう投資・ビジネス戦略に繋げるか。第三は日本の経済や株式相場は大きな歴史的上昇局面に入ったことを述べていく。 

第一に、今の世界景気拡大は最低でも2年は続くであろう。米国ダウ工業株30種平均の120年間の推移を見ると、1896年には40ドル、今は2万3000ドル、わずか100年余りで株価が600倍近くも上昇したというこの上昇をもたらした最も重要な推進力は技術である。100年前は電気も無かった、自動車も無かった。そして今は何でもあり、

技術が大きく変わってきた。つまり最も重要な経済、人の生活と市場発展の推進力は技術である。そして技術の発展は一段と加速力をもって続いている。日本においても同様であり、世界経済、米国経済、日本経済の長期展望は明るい、という基本線を認識したい。 

 

そのうえで今の上向きの経済循環がいつまで続くかを考えたい。2015年からスタートした世界的なモノの動きがここ1、2年で加速している。この好景気がどのくらい続くのか。それはアメリカのイールドカーブを見れば読み取れる。アメリカの経済が次にリセッションに入る時まで、この好景気が続くと考えている。アメリカがリセッションに入った時が次なる世界的な株価下落と経済停滞の転換点である。アメリカが戦後リセッションに入るタイミングというのは、長期金利と短期金利が逆転したときのみである。長期金利というのは銀行の貸し出すリターン、短期金利というのは銀行が調達するコストである。長短金利が逆転すると銀行が逆ザヤになり、歴史的にはその半年から1年後にはリセッションが起きる。なぜ人々がFRBの金融政策、利上げ、テーパリングに関心を持つのかというと、それはひとえにこの長短金利の逆転がいつ起こるかを見極めるためである。という観点で今のアメリカを見れば、長短金利が逆転する条件はほとんど地平上に現れていないと言える。長短金利が逆転する最大の要因はインフレの加速だが、その可能性はほとんどない。つまり利上げによる金融引き締めの必要がないということは、いつまで経っても長短金利は逆転しない。必ずいつかはまたリセッションになるが、政策の間違いさえ無ければアメリカの景気拡大は2年だけでなく、あと5年くらい続く可能性もある。長短金利が逆転する場合その要因はアメリカの中央銀行の読み違いである。物価が上がらないと安心していたら突然物価が上昇し、慌てて利上げを行うということである。ただグローバルに見て物価上昇が抑制されている。アメリカは今現在予防的な金融引き締めを行い、長短金利の逆転を避けるため目先的には必要ないのに短期金利を5回も上げて景気の延命図っている。トランプ政権が税制改革やインフラ投資を促進した場合アメリカ経済は加熱し、長短金利の逆転が早まる可能性はある。もしトランプ政権の財政拡大が不発に終われば、長短金利の逆転の恐れは遠のいて株式市場には悪材料にはならないので良い要因かもしれない。アメリカの長短金利逆転の他に、懸念材料があるとすれば中国であるが、経済成長の維持に重点を置く政策展開を考えると今後もリスクテイクは推進していいと思う。 

 

第二に特に触れたい大きなポイントは現在進行している産業革命をどう考えるかである。その技術的推進力は半導体の微細化(ムーアの法則)、通信の高速・大容量化である。2年で2.5倍、5年で10倍、10年で100倍の高速な技術の発達である。それとコスト削減も進んでいる。例えばスマートフォン、確実に毎年大きな発達を遂げている。これは言うまでもなく、技術の発展がもたらしたものである。このような時代を我々はどう評価すれば良いか。第一の変化は人間関係に現れている。かつての人類の人間関係は、封建時代でも資本制の企業社会になっても全部ピラミッド型であった。今から30年ほど前、企業内においては社員がインターネットで繋がり、組織がフラット化した。いわゆる中抜き、中間管理職がいらなくなった。そして今組織のない時代になった。すべての個人はスマホなどインターネット端末を保有し、社会とつながっているが、両者をつなぐ組織がない。人々は必要に応じてネット上でジョイントベンチャー、チームを組み、仕事や遊びなどをし必要性が終ったら解散する。これを可能にしたものがクラウドを通じて全ての人間が繋がるインターネット、組織ではなくネットが全てを制する。例えばアメリカ、現在は人口の35%がフリーランサーである。こうした時代に何が一番大事になるかというと、ネットにおけるプレゼンスが圧倒的に重要になると考えている。 

 

産業革命がもたらした第二の変化はビジネスの主役の交代である。世界の株式市場の時価総額のトップ10は、10年前はほとんど石油会社や製造業、銀行などのオールドブルーチップであったが、今やほとんど全てがインターネットプラットフォームとなっている。今では土地や資本よりインターネットが経済資源としてより重要になっているかもしれない。 

 

産業革命がもたらした第三の変化、それは経済の常識が変わったこと、つまりは利潤率の上昇と利子率の低下、両者の乖離拡大である。これは従来の経済学やマーケットの常識からかけ離れている。本来なら利潤が上がるときは景気が良い、つまり資金需要が高いのであるから利子率が上がっても良い。しかし利子率の低下が10年以上に渡って続いている。好況下の利子率低下は教科書にはあり得ないことだが、長期にわたって定着している。多くのエコノミストは、金利の長期に渡る低下は資本主義の脆弱を表している、と述べてきたが、ここ10年間の推移を見る限りこれは大きく的外れした議論である。リーマンショック以降のこの10年間、金利は下がり続けた一方で企業の利益は上がり続けたのである。従ってこの利子率の低下を持って悲観論にくみしリスク回避をしたら、投資においては大変な間違いであったと言える。ではこの先どうなるのか。これだけ儲かって、金利が低いのだから安いコストで借金をし、投資をしたらリターンは大きいから、今こそレバレッジを張ったリスクを取るべきなのか。リーマンショック以降はそれが正しかったのであるが、がこれからどうなのか。ここは全ての経営者や投資家が自ら判断しなければいけない。その選択によって将来のビジネスや投資の結果は、天地が逆転する。 

 

この判断を誤らずになすためには、まずなぜこれほど経済の常識とはかけ離れたことが定着したのか、を知る必要がある。武者リサーチはそれは産業革命によってもたらされたと考えている。産業革命は労働と資本の生産性を著しく高めた。少ない人間で商売ができ、少ない資本で商売ができる、つまり設備やシステムの値段が急速に安くなる。企業は金も人も節約でき、超過利潤を享受できる、という企業は経営環境これは他の時代にはない歴史的環境であると言える。本来なら高利潤の分野には多くの企業が参入し競争が激化するので、高利潤は持続しない、つまり企業利潤率は低下していくはず、というものが経済学の常識である。しかし、利潤率が10年以上も上昇傾向にある。これだけ企業が儲かっているのであれば、借金をして投資を増加すれば良い話であるが、ではなぜ金利は下がり続けているのか。企業は儲かるが、金は要らない、設備価格の急低下により例えば減価償却を100億円実施しても、再投資に必要な金は20億円であり、80億円余る。今空前の収益をあげているGoogle、Apple、Facebookはほとんど投資する必要ない業態である。人材の投入もいらない。稼いだお金が宙に浮く、遊んでいるのである。この循環によって著しい資金余剰と貯蓄余剰が生まれ、利子率を下げていると言える。日本に特に顕著な現象であるが、世界的な現象でもある。 

この状況をどう考えるかだが、考え方によっては非常に危険な状態であると言える。。資本が滞留し、利子率が下がっているということは、企業が稼いだお金が遊んでいるということである。お金が遊んでいることは資本主義の自己否定である。まさしく今起こっていることは、企業の超過利潤が滞留し、低金利をもたらしているということである。ではどうすればいいのか。政府の介入である。政府が余剰資本を使って需要を作り上げる。財政、金融、あるいは所得政策によって余剰資本が実態経済に還流する手立てを作り上げないと、経済は直ちに停滞する。政府による需要創造のイニシアチブがしっかり働いているかどうかが決定的に大事になる。これが機能していない時には、企業がいくら儲かっていても直ちに株価が下がる。正しく日本の安倍政権はこれを推し進めたのであり、対照的に民主党政権下(2009年9月から2012年12月まで)では世界経済環境はリーマンショックからの鋭角回復過程にあったにも関わらず、円の独歩高と景気の悪化を招き日本株は一人負けを喫した。トランプ政権も同じく、財政・金融政策を用いることによって余剰貯蓄を需要創造に繋げるという明確な政策のチャネルを持っている。従ってトランプが大統領になると株価は25%も上昇したという現象が起こったのである。 

 

もう一つ、この産業革命がもたらすかと思われる第四の要素は、中長期的なドル高ではないだろうか。その根拠はアメリカ企業の海外における企業の利益留保の急拡大である。アメリカ企業の海外留保は2015年に2.5兆ドル、今は約3兆ドルレベルに達していると推測される。この膨大な海外の余剰を国内に還流させるというのがトランプ政権の税制改革の柱であり、マーケットもそれを期待しているのである。この海外留保は10数年前にほとんどゼロであった。これがなぜこんなに伸びたのか。そのプレイヤーは主にマイクロソフトやアップルやグーグルのようなアメリカのハイテク企業。新たに台頭したアメリカのビジネスの主役達がグローバルに稼いでいるということである。これら企業はなにも輸出しておらず、全て海外に子会社を設立し、そこで膨大な収益をあげる。ドル円レートはどうなるのか。それは一義的にアメリカの借金の増減、つまり経常収支と大きく結びついている。アメリカが借金をすればドル供給が増加してドルは安くなり、逆に借金をしなければドル高になるのである。経常赤字最悪の時は2006年の8000億ドル、対GDP5.7%。最近は4000億ドル台、対GDP2.6%まで減った。このアメリカの経常収支が、後10年くらいで黒字化する可能性があるのではないかと見ている。アメリカの赤字がなくなるのではないかとなるとドル不足になる。今やアメリカ企業は海外で稼ぐ仕組みを持っている。中国除けば世界中がインターネットを使い、スマホで繋がればマイクロソフト、アップル、グーグルのような企業が儲かる。これはアメリカの経常収支を構成する一つの重要な要素である、図表17のサービス+1次所得収支はアメリカ企業が海外で稼いだ収益である。ここ10年位、年率12%で上昇しており、あと10年で4000億ドル以上さらに上乗せされ、貿易赤字を上回ることによって経常収支は黒字になる、ということが起ころうとしていることである。 

もう一つの経常収支を決定する要素は貿易収支である。この貿易収支はかつて大幅な赤字であり、いまだにトランプ政権はこれを問題にしているが、アメリカの貿易赤字は緩やかに減っている。そしておそらくアメリカはこの先さらに貿易赤字を減らしていくと考えている。なぜか、それはこれ以上輸入するものがないからである。1980年代、アメリカ経済はほぼ自給自足だったが、今は8割、9割の物資を輸入している。貿易収支はこれ以上悪くならない一方で、サービス+1次所得の黒字化が進めば、経常収支は劇的に赤字が減るのは明らかである。そしてドルが強くなる。産業革命が市場に引き起こしている現象の大きな要素だと考える。 

 

このようなドル高はどのような影響を持つのか。世界4極のGDPの推移を見ると、2009年に日中逆転、2016年中国ユーロ圏逆転、このままいくと2026年に米中逆転がおきる。となるといずれ中国が世界を制覇するのか。建国100年の2049年までには米中のプレゼンスは逆転すると中国は確信しているようであるが、果たしてそれは現実に起きるのだろうか。われわれは起きないと考える。仮にドルの価値が倍に上がれば、米中の経済規模は2026年時でも倍の差がつく。そして中国の過大な成長率はアメリカの中国に対する大きな関与で成り立っており、アメリカがこれを是正しようとしているアメリカの対中貿易赤字は全体の半分に相当する3470億ドルである。またアメリカの対中経常赤字は過去10年間ほぼ米国GDPの2%で推移してきた 、つまりアメリカが1年間稼いだ所得の2%が中国に移転され続けてきたのである。昔の日米貿易摩擦当時とは比較にならないほどの潜在的摩擦の種である。アメリカは世界覇権のステイタスに脅威となる中国の台頭を許さないであろう。米中貿易戦争はもう既に始まっている。このように考えるとドル高は地政学的にもアメリカに対して大きな意義を持っている、といえる。 

 第3点目の本日のトピックは日本である。日本が歴史的飛躍期に入っている理由について説明する。

日本が飛躍期に入っていると考える第一の根拠は地政学である。近代日本の経済の拡大には上昇と下落がサイクルとして繰り返されており、これには地政学が大きく影響していると考えられる。近代日本は黒船から始まっている。黒船とは何かといえば正しく地政学である。明治から大正にかけての日本の繁栄は日英同盟が影響している。この日英同盟のお陰で日本は日露戦争に勝利し、アジアにおいて唯一の帝国主義国として名を連ねた。しかし、イギリスとアメリカを敵として戦争をし、一旦は破綻した。戦後の日本の繁栄期1950年から90年、これは冷戦によって始まり、冷戦によって終わったと言える。アジアにおける自由主義の砦としての日本の立場により、様々な形でアメリカは日本を支援してくれた。90年に冷戦が終わるとこの支援も終わった。もはや日米同盟は必要ない。アメリカは日本を守るためではなく、暴発しそうな日本を抑えるために米軍は日本に駐留し続けた。この下ではとてつもないジャパンバッシング、貿易摩擦そして超円高が進行した。その結果として様々な産業上の痕跡が残された。その好例が半導体である。1980年代、日本の世界市場におけるシェアは20%、1990年代は5割に達し日本は世界最大のハイテク産業国になった。石原慎太郎氏は著書「『NO』ノーと言える日本」の中で、日本の半導体技術がなければ、アメリカの軍備装備はままならないとも主張した。これは今から振り返るといかにも傲慢な見解であったが、その後の日米貿易摩擦によって見事に叩かれ、今の日本の半導体シェアは1割となっている。長期にわたって地政学的なアメリカの圧力を受けて、日本のエレクトニクス産業が困難に陥って全てプレゼンスを失ったのであるが、これこそが地政学の帰結なのである。今は新たな地政学環境に入っている。それは米中対決である。中国の台頭に対して、日米同盟がさらに大事になってきている。アメリカだけでなく、イギリスも、中国を念頭に置き、日本と地位協定を結ぶという話が出てきた。冷戦終結以降地政学的に日本は大きく叩かれてきたが、これから日本が有利になる時代がきている。世界最強の米国の最も重要な同盟国という日本の立場は、国際分業や為替など多くのチャンネルを経由して、日本経済に有利に働くと予想される。 

 

日本の飛躍期入りを支える第二の要素は企業の収益力である。企業利益の過去のピークは1990年であり、それは戦後日本の繁栄の絶頂期であった。この繁栄は一旦終わった。それは1990年時点における日本のビジネスモデルが完全に破綻したのであった。価値を作り出す仕組みが壊れたのである。1990年までに収益が伸びた原因を端的に指摘すればそれは、第一にバブル、第二にアメリカといってよい。当時のリーディングインダストリーである電気、自動車、精密、機械は全て輸出用の製造業であり、これらの多くはアメリカの技術を導入、コピーして作られたものであり、またその利益の過半はアメリカへの輸出によって稼ぎ出されていた。特に半導体、自動車の利益は圧倒的にアメリカからであった。有利な為替の下で、人件費が低い日本のこれらの輸出品の競争力がとても強かったのである。品質が良い上に価格競争力が強く、シェアが大きく高まった。しかしバブルが弾け、アメリカが日本叩きをし、円高になり、そして日本の競争力が失われた。さらにアジア、中国企業は日本のビジネスモデル、つまり導入技術と価格競争力をもっと巧みに模倣し、日本のシェアを奪って行った。コピー技術、安い労働力でシェアを奪うという、かつて日本がアメリカに打ち勝ったビジネスモデルをもっと大きなスケールで行ったので日本は負けた。これらが1990年以降の10年間の日本の企業収益の劇的な凋落の背景にあったと言える。 

 

しかし、その企業収益が今、史上最高である。直近の企業収益、営業利益対GDP比率は11.9%で過去最高となっている。ほかのどのような指標で見ても、現在の日本の企業収益の向上は劇的である。名目GDPはここ20年ほぼ500兆円で横ばいであるにも関わらず、企業収益が顕著な増加を見せている。なぜこのようなことが起きるのか。 

 

その背景をエレクトロニクスのビジネス領域を例にとって考えてみる。いうまでもなくエレクトロニクスで一番儲かる分野は液晶、パソコン、スマホ、半導体、テレビというデジタルの中枢分野である。かつてこの分野を支配していた日本企業のプレゼンスは、今は皆無である。世界のエレクトロニクスのメガマーケットにおいて日本は完全に負けたというのが世間の常識である。では、日本の企業は一体どこで生き延び収益を上げているのか。それは周辺と基盤の分野である。デジタルが機能するには半導体だけでなく、半導体が処理する情報の入力部分のセンサー、そこで下された結論をアクションに起こす部分のアクチュエーター(モーター)などのインターフェースが必要になる。つまり日本は一番市場が大きいエレクトロニクス本体、中枢では負けたものの、周辺で見事に生き延びている。大量に資金が投入される中枢の分野は競争が極めて激しい。中国はこの分野の支配権を得るために膨大な投資をする。そしていずれ大変な価格競争の時代になるだろう。しかしこの中枢分野は日本は既に敗退した分野であるため影響はない。日本企業は競争のない周辺分野で生き残っている。価格競争がないので有利な値段で売れる。今後の国際競争においては、希少性があるかどうかが重要になってくるが、日本の担う分野は希少性という点で有利であることが明白である。いうまでもなく日本には、国内市場向けに半導体、液晶、テレビ、パソコン、スマホなど中枢の技術も残っている。この中枢および、周辺と基盤の3つの技術分野を揃えているのは日本だけである。これからIoTの時代になると、これらがないとモノが作れないということである。周辺の部分は単純にモジュールを組み合わせればできるというものではなく、すり合わせによる工夫が必要な分野、また大量生産ではなく多品種小ロット生産、技術がブラックボックスで模倣できないなどの特性がある。研究室で人々が一生懸命チームを作って研究をしていくという地道な努力が必要なものである。一方で中枢の部分は、技術をコピーし、あるキットを買ってくれば簡単にモノが作れる。時間と金はかかるが、やる気になればできるのがこの中枢の部分であり、まさに今中国が行おうとしていることである。かつてサムスンが日本のシェアを奪ったように、中国が中枢分野のプレゼンスを奪おうとしている。しかし、日本が担っている周辺・基盤部分という領域には入れないであろう。これから増えていく電子機器はスマホ、パソコンではなく、IoT関連の機器である。桁違いの数量が必要だが、これらはスマホやパソコンのように全部同じ作りとは違い、一つ一つものが異なる、量産効果は出にくいものになる。中国がいくら爆投資してシェアを奪おうとしても、全ての要素技術を駆使して競争力を得ることは不可能とみる。中国は今ハイテクブームの中心にいる。中国製造2025プランで大投資をしている。この恩恵を日本のエレクトロニクスメーカー、機械メーカー、化学メーカーが受けている。短期的には極めて大きな追い風である。そして長期的には日本企業は中国の爆投資の弊害を受けにくいポジションに立っているといえる。ポイントは価格競争から完全に外れ、技術品質に特化、オンリーワンに特化、オンリーワンであるがゆえに価格支配力がある、円高でも抵抗力がある、これがこの間の日本の企業収益を支えていると考えている。日本企業は技術品質で優位性持つオンリーワン分野に特化していると述べたが、それはエレクトロニクス以外でも、観光などサービス業においても当てはまることである。 

以上地政学の状況、企業の稼ぐ力などの好条件が重なり、日本の経済と市場に大きなチャンスが来ている。株式の超割安なバリュエーションを考えれば、日本株式市場は大きな追い風を受けつつあるといえる。 

 

 

その2Q&Aセッションに続く

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