2017年07月26日

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投資ストラテジーの焦点 第K302号

新産業革命における米国の圧倒的競争力、最大要因は資本市場の効率性

米国金融資本市場に対する市場の注目は高い。規制を強化するのか緩和するのか、例えばグラス・スティーガル法の復活(銀行証券の分離)をするのか、ドッド・フランク法の中のボルカールール(銀行の自己勘定による市場取引規制)を緩和・廃止するのか、等はトランプ政権の政策焦点である。またQE(量的金融緩和)の出口がスムーズであるか否か、を投資家はかたずをのんで見守っている。それが銀行の収益に直結し、直ちに株価に大きな影響を及ぼすからである。しかし細部ではなくダイナミックに変化する米国金融資本市場の全体像はどうなっているのか、その総合的評価はどうか、という点での議論が等閑視されているのではないか。

 

より重要なことは、資本市場が適切に機能し経済的厚生の実現に寄与できているかであろう。資本市場の変化を突き動かしている原因は何か、資本の需要と供給のマッチングの場としての資本市場がどのように変わってきたのか、を俯瞰的に考えることが肝心である。

 

(1) 好パフォーマンスの米国資本市場

 

資本市場が機能しているかどうかの解は、金融にはない。所与の条件(技術、資本ストック、人口と労働力)の下で経済パフォーマンスを最大化できているか、資本のシーズとニーズのマッチングがなされているかどうかが鍵であるが、それらに関して米国の資本市場パフォーマンスは世界最高であると言える。米国はリーマン・ショック以降の経済パフォーマンス、経済成長、雇用創造、企業収益の伸び、等において先進国で最も優れており、デフレ陥落のリスクが最も小さかったことは、その証左である。

 

群を抜くリスクキャピタルの提供

米国経済の好パフォーマンスの背景にある資本市場の寄与として3つの要素が指摘できる。第一は、米国が世界で最もアニマルスピリットの涵養に成功していることである。高株価が維持されPBRは世界最高である。またクレジットのリスクプレミアムは歴史的水準まで大きく低下している。さらに資本余剰の程度は相対的に小さく、利子率の低下は限定的でデフレの危険性が最も小さかったことが指摘できる。図表3見るように米国の長期金利は先進国では最も高くなっている。つまり米国資本市場は先進国で最もリスクキャピタルの提供に成功してきたのである。

 

 

 

 

家計の資産形成に大きく寄与

第二に、米国資本市場は家計の財産と所得の増加に大きく寄与してきた。米国家計の可処分所得の中で資産所得の割合は大きい。可処分所得に含まれる年金や保険の雇用者負担分や政府による社会保障給付を除く家計の現金収入を見ると、米国は労働所得3対資産所得1の割合となっている(図表4)。日本の家計現金収入の労働所得対資産所得の割合は9対1となっており、米国家計が資本市場の恩恵を多く享受していることが分かる。また米国家計の資本市場を通した資産形成も顕著である。図表5に見るように米国家計純資産(総資産-債務)は、リーマン・ショック後の資産価格下落で20%減少(2007年2Qの67.7兆ドルから2009年1Qに54.8 兆ドルへ)したものの、その後鋭角回復し、2017年第1四半期末では94.8兆ドル、対GDP比では3.8倍から5.0倍へと大きく向上、米国家計消費の回復を支えた。

 

 

 

 

イノベーションの揺籃器に

第三の何よりも重要な米国資本市場の貢献とは、多くのイノベーションを喚起してきたことであろう。今や人類経済の新段階を画するインターネットインフラの創設と運営、活用を基盤とした多くの新ビジネスモデルは米国発である。世界中のインターネットプラットフォーマーは政府による保護育成がなされている中国を除いてすべて米国企業が独占している。図表6は世界株式時価総額の10年間の変化であるが、2017年5月末時点で世界のトップ5がすべて米国のインターネットプラットフォーマーで占められていることを見れば、米国が世界の新産業革命を牽引していることが明瞭である。10年前までのトップ10は銀行、石油、通信などの10年一日の既存プレーヤーであったわけで、米国株式市場内において顕著な主役交代が起きていることが明白である。好例は、米国自動車企業の株式時価総額において、13年前設立の新興電気自動車専業のテスラ(2016年7.6万台販売)が販売規模100倍を超える既存のGM 、フォードを抜いてトップに踊り出たことであろう。このことは自動車の将来が電気自動車であり、それによるビジネスモデルの大転換が必至であり、大転換の旗手は既存メーカーではなくしがらみのない新興テスラであることを、いち早く資本市場は織り込んでいるのかもしれない。シュンペーターは、銀行家は新結合の遂行を可能とする経済の指揮者であると述べ、銀行による融資がイノベーションを通して将来社会の青写真を描くと主張しているが、銀行の融資ポートフォリオが資本配分を決めていたのは過去の話、現在の米国では株式市場が時価総額構成の大幅な変化を通して、将来の青写真を作っている、と言える。時価総額トップに立ったテスラは、それによって与えられる資本力を動員して、新ビジネスモデルを追求していくであろう。

 

米国の資本市場のリスクキャピタル提供は上場企業に止まらない。未上場の企業に資本を提供するプライベートエクイティの成長、M&Aの盛行、ジャンクファンドの発達などイノベーションを可能にする装置に溢れている。テスラの創業と成長もそれによって可能となった。リスクキャピタル提供に心血を注いできた専門家が米国の経済政策の司令塔に座っていることも米国の特徴である。ゴールドマンサックス出身の歴代米国財務長官、続々政界に進出するベンチャーキャピタリスト(ウィルバー・ロス商務長官、前共和党大統領候補ミット・ロムニー氏)等、が制度設計を担ってきた。否定的側面から語られることが多い米国の格差、企業経営者の高額報酬も、逆の側面から見れば、次々に資本家を生み出し、彼らがリスクマネーの提供主体になっているという形で機能しているのである。ベンチャーキャピタル、プライベート・エクイティ・ファンド(KKR、カーライル、ブラックストーン、ペインキャピタル)の充実ぶりは他国を圧している。

 

このように見てくると、米国の資本市場はリーマン・ショックによる困難を乗り越えて、機能復活し米国経済厚生に大きく寄与していることが分かる。

 

 

(2) 米国の資本市場政策、金融政策が大体において適切であった

 

1990年のS&L危機、2000年のITバブル崩壊、2008年の住宅バブル崩壊とリーマン・ショックと相次ぐ金融危機の勃発に対する政策対応は、以上に見た米国資本市場の相対的健全性、リーマン・ショックの打撃からの迅速な立ち直りから見て、妥当であったと評価できる。

 

金融制度の二正面展開、バブルの反省に基づく規制強化

ITバブルの崩壊と金融不正の横行、サブプライム住宅バブル崩壊とリーマン・ショックによる金融資本市場の崩壊という歴史的経験を経て、米国では危機回避のための二正面作戦が展開された。第一は、バブルの反省に基づく規制強化である。戦後の米国では規制緩和が長期趨勢であり、1980年代、1990年代の一連の金融改革と規制緩和(金利自由化=レギュレーションQの廃止、銀行の州際業務の認可等)は米国の金融イノベーションと新商品の開発を生んだ。しかし1999年のGS法の廃止とGRB法の制定(銀行と証券業務兼営の認可)を最後に、その後は規制強化がトレンドとなる。2000年のITバブル崩壊とエンロン、ワールドコムなど金融犯罪が明らかになって以降、新たな規制の導入が相次いだ。2000年には不正に結びつく安易な企業買収策pooling of interestが禁止された。また企業の粉飾決算や不正会計処理の防止、内部管理体制の強化を柱とするSOX法が制定(2002年)された。更に2008年にはサブプライム住宅ローンの焦げ付きに端を発した金融危機がリーマン・ブラザーズ、AIGなど大手金融機関の破たんと世界的信用不安の連鎖を引き起した。世界金融危機に際しては、その再発防止のための包括的金融規制法DF法が制定された(2010年)。DF法は自己勘定での取引の禁止、PQやヘッジファンドへの出資制限、預金者保護のための高リスク事業の禁止などにより、投資銀行の収益を大きく抑制した。もっともトランプ政権はその弊害を認識し大幅な緩和を提起している。

 

危機後のリスクテイク促進策

二正面作戦の第二は、危機救済としての公的資金投入(bail-out、米国では2008年のTARP創設)とリスクテイクを支援する金融緩和政策である。TARP(問題資産救済プログラム)は金融機関、自動車メーカーなどへの7,000億ドル予算規模による資金投入であり、実際には4,546億ドルが投入され、対象企業の健全性回復によりそのほぼすべては回収された。一方金融緩和策はQE、インフレターゲティング(2012年1月公表開始)として打ち出され、アニマルスピリットを喚起し資産価格を押し上げるものとして作用した。先に示した米国資本市場の一早いバブル崩壊の混乱からの回復、経済の正常化はこのリフレ策(新種の金融緩和政策)がなければ不可能だったであろう。

 

BIS view vs. FED view 

米国の迅速な立ち直りは、バブル崩壊後の長期停滞とデフレ陥落を余儀なくされた日本と好対照をなしている。持続不能な資産価格上昇によりもたらされた金融上の不均衡の生成、その崩壊に際してどのような政策対応が望ましいかに関して、二つの見方が提示されている。「後始末論」と「事前抑制論」でそれを主唱していた機関により前者はFED view 後者は BIS viewと呼ばれている。FED viewは「バブルが崩壊した後金融緩和政策を強力に行うことでその影響は対処可能、事前のバブル抑制策は慎重にするべき」とリフレ策の重要性を指摘する。対してBIS viewは「バブル抑制のための事前金融引き締めを重視し、崩壊後も過度の緩和の弊害を強調する」(金融庁 氷見野良三氏「本邦のバブル対応--- 対米比較と教訓」)。

米国の金融危機に際してFRB議長として金融政策を指揮したバーナンキ氏はかねてから「日本は銀行システムに対する規制・監督が極めて弱いままで金融自由化を進めたためにバブルを引き起こした。その後の金融緩和は臆病すぎた」と批判していたが、米国のバブル崩壊に際しては自らの信念に即した、徹底的なリフレ政策を遂行した。3回にわたって打ち出されたQEは、中央銀行がバランスシートを拡大し長期国債やMBSを購入し直接資産価格に影響を与えるというもので、伝統的金融政策の枠を大きく超えるものではあったが、資産価格の底入れと押し上げに決定的役割を果たした。日本の金融当局がBIS viewに同調的な白川氏が日銀総裁の職を離れるまでリフレ策の採用に後ろ向きであったこととは好対照である。

 

米国がFED viewにこだわる理由について、二つのモチベーションを強調しておく必要ある。第一はリスクキャピタル提供に金融の究極の目標が置かれているということ、第二は金融における国際競争力の強化である。

  

(3) 資本市場激変の背景にある事実、利潤率と利子率の乖離

 

伝統の枠を超えた金融政策が求められているのは、米国金融資本市場自体が大きく変化しているからである。変化の第一は間断ないコンピュータネットワーク技術の発展である。Eコマース、Eトレード、E決済、Eファンディングの進展、フィンテック、ネットでの情報伝播など、金融を構成する機能が急速にネットにより代替されている。

 

教科書に書かれていない現実、高利潤下の金利低下

より重要な第二の環境変化は、米国をはじめとする先進国金融資本市場において資本余剰が強まっていることである。世界的貯蓄過剰(バーナンキ氏)だけではなく、米国においても家計と企業での金融資産蓄積は大きい。家計金融資産/GDP、一人当たり金融資産は上昇する一方である。また企業部門でも高水準の利益が続く一方、投資資金需要は十分でなく、資金余剰(特に海外での留保利益甚大)が定着しているが、それはフリーキャッシュフローが恒常的に黒字化していることからうかがわれる。こうしたことが長期金利を傾向的に押し下げている。

 

 

 

 

今の資本市場が直面する金融困難を説明する不等式は「r1>g> r2」(r1が企業の儲け・利潤率、r2は企業の資本コスト・金利・利子率、gが成長)である。2つの不等式が同時に起こっているのが現在の情勢の大きな特徴である。利潤率が高い、つまり企業がもうかっており、配当率は2%、企業の益回りは5%、そしてROEは14%と高い。では、企業が商売をやる時に必要な資金の調達コストはというと、10年国債利回りは2%台と、この両者との乖離が著しく大きくなっている。一般に、利潤率と利子率はほとんど連動すると考えられる。景気が良くて企業が儲かる時には当然金利が上がる。そもそも利潤も利子も資本のリターン、利潤率と利子率は、本来おなじものなのだから、「r1= r2」これが普通の教科書的な経済の姿である。しかし、今起こっているのはr1とr2が極端に乖離し、そのサンドイッチになって成長率が停滞していることである。

 

 

資本市場の使命は適切な資本配分により最大の経済的厚生(インフレ抑制下の雇用増大)を実現することである。しかし利潤率が一方方向に上昇し利子率が一方方向に低下するという環境の下では、従来型の金融政策では資本配分の非リスク資産への偏りを是正できず、経済厚生を実現できない。そればかりか資本の退蔵を高め、デフレの危機を強めてしまう。こうした環境の下で従来の常識からすれば、奇策、禁じ手が必要不可欠になってしまったのである。量的金融緩和はそうした現実に対する挑戦といえる。

 

グリーンスパンの謎の原因、新産業革命仮説が最も説得的

この「r1>r2」という普通ではない現実は、企業が産業革命による生産性向上により、著しい超過利潤を獲得していることに根本の原因があると考えられる。IT、スマートフォン、クラウドコンピューティングなどの新産業革命は、クーローバリゼーションを巻き込み、空前の生産性向上をもたらし、労働投入、資本投入の必要量を大きく低下させている。このミクロでは明白な生産性の向上が、マクロ統計には表れていない。それどころか主要国の労働生産性はリーマン・ショック以降顕著に低下している。いくつかの仮説が考えられるが、ミクロで節約された資源が、マクロでは活用できずに遊んでいるということが最も妥当な解釈ではないか。つまりミクロの節約が企業収益の顕著な増加をもたらすと同時に、マクロ的には「slack(余剰)」を生んでいるのである。この利潤率の上昇、利子率の低下というかい離現象はほぼ20年にわたって続いている。グリーンスパン元FRB議長が2005年コナンドラムと指摘したが、イエレン議長の現在も大きな不思議として再認識されている。

 

株価上昇はバブルではない

この資本余剰状態は恒常的に資産価格に上昇圧力を与えており、それはリーマン・ショック前も後も続いている。それによって上昇する資産価格はバブルか、錬金術なのか。現在のところ米国の資産価格上昇には十分な根拠がある、と言ってよい。第一に企業収益の裏付け、つまり価値創造の実態がある。第二に効率的企業財務が自社株買いやM&Aを通して株式価値(ROE)を押し上げている。第三に資産価格上昇が経済拡大の好循環を引き起し更なる企業業績向上をもたらすという好連鎖が起きている。家計純資産の大幅増加が消費拡大の推進力になっているし、企業のリスクテイク能力の増大は財務的・実物的投資増加をもたらし、余剰労働力の吸収が進展している。

 

このように考えればFED viewに基づく米国の金融政策は見事に功を奏したと言える。対してBIS viewによるバブル事前抑制論が危険性の高い政策であり、その影響が強かった日本で長期デフレが定着したことが想起される。

 

(4) 市場原理に忠実な米国の金融主体、世界の金融イノベーションを主導し続けてきた

 

世界一効率的な米国資本市場

このように米国の資本市場の効率性、先進性は際立っている。それは米国金融資本市場が、世界で最も資本の合理性追求に厳しく、市場金融化が浸透してきたことと関連している。米国金融資本市場の構成主体は、以下に見るように市場親和的なビヘイビアを特徴としている。まず家計は資産運用において現金預金比率が著しく低く、株投信など市場性商品が運用対象の大半である(図表10参照)。また企業金融は内部資金中心で銀行借り入れは僅少であり、高ROE、資本効率を求める株主の圧力により、企業は財務レバレッジを大きく高めている。つまり、IPOの増加にもかかわらず、自社株買いによりネットの株式発行はマイナスが続き、債務の増加もあり、Equity to debt swapと言える現象が続いている。そしてそうしたリスクテイクは市場における資産価格上昇(株高、ジャンク債リスクプレミアム低下、長期金利低下)により、家計と企業部門に「好都合」の現実となり続けている。米国企業は、利益が高成長する一方、資本生産性の上昇(技術革命による設備コストの劇的低下)により恒常的にフリーキャッシュフローが余剰となっており、それを株式配当と自社株買いでほぼ100%株主に還元している。つまり余剰資本を抱え込んでいない。

 

更に金融機関経営が大きく変化している。リーマン・ショック以降、収益スブレッド縮小、規制強化(DF法)、ネット証券の浸食などにより、セールス&トレーディングの収益急が低下し、アドバイザリー業務などより知的付加価値部門へのシフトを迫られている。ヘッジファンドビジネスの退潮、資産運用・個人向けはRIA(Registered Independent Adviser)の登場で変容を遂げている。金融機関はより知的な価値創造にシフトを迫られている。

 

 

 

 

米国で花開いた金融イノベーション(新仕組み、新商品)

そもそも現在の米国資本市場の効率性は、米国が20世紀以降世界の金融イノベーションをリードし続けてきたことの延長上にある。①銀行ローンより債券発行という金融形態(米国資本市場を支えた基軸は20世紀初頭の鉄道債発行など債券発行による資金調達が主であった)、② 経営者支配の確立(1932年バーリ・ミーンズによる所有と経営の分離)、企業の社会化の進展、③一早い金融自由化とディスインターミディエーション、機関投資家現象、ERISA法(1974年)制定による退職年金の運用責任からコーポレートガバナンスの確立、④MMF、CD、先物市場CMEの創設、ジャンク債の創設、証券化商品、シャドーバンキングの発展など、資金調達手段、資金運用手段の多様化が進展し、市場のマッチング機能飛躍的に高まったこと、⑤企業財務の変化、多様化➡M&A、LBO、株主アクティビズム、グリーンメイラー、自社株買い、デレバレッジ、株式ボーナス・ストックオプション、等々。これらは資本の合理性のあくなき追求と言え、米国資本主義の健全性を示している。

 

改めて米国資本市場の強さの要因を列挙すると、①労働と資本市場が流動的、効率的で、資源配分が迅速に変化できること、②金融政策の効率性(日本の誤りvs米国の成功)、③ガバナンスの透明性、④ルール設定で世界トレンドをリードできること、⑤オリジネーション(商品製造力)、販売力(市場アクセス)で世界を圧倒していること、等が指摘できる。金融とは究極のプラグマティズムである。米国の企業経営に対しては、短期主義、格差、経営者の高給と強欲、等の批判がなされるが、それらは米国の資本市場のリスクキャピタルの提供と活発なイノベーションの副作用と言えるものであり、アプリオリの批判は当たらない。

 

最後に米国労働市場の効率性にも言及しておく。図表12は主要国の労働市場の弾力性を比較したものであるが、米国の労働市場の対GDP弾力性が最も高いことが明瞭である。資本と並んで労働市場の効率性も米国の先進的イノベーションを支えていると言える。

  

 

展望

以上の検証から、米国金融資本市場の相対的優位性は続く。最も市場変化に対して柔軟な米国の特質により、今後も新しい金融ビジネスモデルは米国で生まれるのではないか。

 

今や、世界各国は新産業革命に直面し、そこで勝ち抜く競争を展開している。古い分野から新しい分野へ、資本と知的資源、労働力を移転させなければならない。米国がこの競争に大きく先んじているのは、資本市場と労働市場が最も弾力的で、資源移転がスムーズであるからに外ならない。

 

例えば10年前、ドイツとフランスの失業率は10%でほぼ同じであったが、今日ではフランスが10%で変わらないのに、ドイツは4%へと大きく低下した。この格差は、15年前のシュレーダー政権が行った、労働市場改革による労働市場の効率化が決定的だったと言われている。ここに焦点を当て、改革を主張したマクロン氏がフランス大統領選挙で勝利したばかりか、議会選挙においても、既成政党を凌駕する圧倒的議席数を確保した。フランスでは捲土重来を期した大改革が始まるだろう。

 

日本には、労働市場と資本市場の硬直性が主要国の中で最も高い、という欠点がある。それがありながらも、過去最高の企業収益を上げているのだから、大したものだが、それにドイツで行われたような労働市場改革、アメリカに見られるような資本市場の効率化が加わるなら、将来展望は大きく開かれるはずである。資本市場改革はスチュワードシップコードの策定、コーポレートガバナナンスコードの策定、GPIFなど公的機関投資家改革等、大いに進展した。また敵対的M&Aが受け入れられつつある。労働市場改革においても政権のイニシャティブに期待したい。

 

 

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