2014年03月12日

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ストラテジーブレティン 第116号

岩盤円安の先に起きる事
~アベノミクスの現実相場スタートへ~

震災復興支援・義援金セミナー開催のお知らせ
現在、そして今後の有望企業・投資テーマは何か?を語る

東日本大震災から早いものでもう3年がたち、あの時の記憶がどんどん風化されつつある気がします。しかし、大震災のことを忘れることなく語り継ぎ、お互いを助け合う絆を確認することが必要だと考えております。その為にも、アベノミクスの期待相場がいよいよ現実になりつつある今、改めて、現在、そして今後の有望企業は何か、を語り合う場を提供したい- そんな思いで今年もまた、義援金セミナーを4月26日に開催することとなりました。
今回のセミナーでは、武者陵司の基調講演を始め、鈴木行生と高成田享氏による対談、今をときめくベテランから若手次代のホープのアナリストたちによる討論会等を行います。
今年も義援金セミナーとさせていただき全額を「東日本大震災こども未来基金」に寄付いたします。

日 程    2014年4月26日(土)時間13:15〜16:50 (12:45受付開始)

会 場    東京証券会館 8Fホール

参加費    無料

※当日会場にて義援金(1口3,000円)をお願いいたします。義援金は主催者を通じて全額「東日本大震災こども未来基金」に寄付いたします。


⇒詳細・お申込はこちらから
http://money.minkabu.jp/gienkin2014

 

悲観論者による悲観論
年初来の株価低迷により俄然悲観論、つまりアベノミクスは息切れする、失敗するという論調が高まっている。そうした論者の多くは2013年のアベノミクス登場当初から、「金融政策ではデフレは脱却できない」「日本経済の停滞の原因はデフレではないので、対デフレ政策は誤った処方箋である」「構造改革・リノベーション(何を具体的に意味するのかははっきりしないが)がデフレ脱却と成長には不可欠であり、それは満たされていない」などと政策批判と対案なしの悲観論を述べてきた人々である。言ってしまえば、「当初から見通していた通りアベノミクスは失敗しつつある」と言っているに過ぎない。

しかし、やっぱり失敗しつつあると言う前に、この一年で何が起きたのか、それは将来にどう繋がっていくのかを考えることが重要である。この一年間に起こった最も重要な変化は、ゆるぎない円安環境が整ったことであろう。岩盤円安は様々な好循環を日本に引き起すだろう。

 

ゆるぎない円安要因
経済展望も探偵の謎解きも、ことは不動の事実の確認からスタートする。丹念な事実確認によって外堀が埋められていけば、混沌の中から真実の論理(因果関連)が浮かび上がってくる。現在の日本経済と市場分析において、岩盤と言える(真面目な分析者であればだれでも否定できない)事実は、ゆるぎない円安条件が、かつてなく揃っていることであろう。そしてこの不動の円安の先には、確実な将来が見えてくる。

 

日銀の姿勢は世界最大の緩和、紙幣増刷
第一の円安の条件は、今や日銀は世界随一のハト派であり、ベースマネーの伸びは世界最大であると言うことである。言うまでもなく通貨の強弱を決める最も基本的条件は、マネー供給のバランスである。日銀が世界一円を大量に印刷しているということは、最大の円安要因である。

 

過去最大の赤字、貿易11兆円に続き、経常収支も-実需の円売り必至
第二に、日本は昨年来著しいドルの実需要を生み出す空前の貿易赤字(2013年11兆円)に陥っていることがあげられる。今年に入り貿易収支のみならず、それに所得収支を加えた経常収支も赤字化している。それは輸入業者が,年間11兆円もの輸入代金のためのドル買いを迫られていることを意味する。かつての日本は大幅な貿易黒字が続き、輸出業者のドル売りが常態化し、ドル円の実需給は常に大幅なドル売り円買い圧力にさらされていた。それが大きく逆転したのである。

 

世界最低かつマイナスの実質長期金利
第三に日本の実質長期金利は史上初めてマイナスかつ世界最低になっていることが注目される。これまで日本はデフレが続いていたために、名目長期金利が世界最低であるにも関わらず、実質金利は他国以上に高かった。実質金利が高いと言うことは借金の負担が大きく借金返済のモチベーションが高まることであり、結果日本では信用収縮傾向が強かった。しかし今や日本は世界最低かつマイナスの実質金利の国となり、日本が世界で一番借金をしやすい国になったのである。言うまでもなく借金をするということは、為替取引では円ショート(円を売ること)を意味する。円は世界で一番買われやすい通貨から、売られやすい通貨に転換したのである。

 

円=セーフヘイブン・スイテタスの終焉
以上3つの決定的と言える円安要因は、当分変わりようがない。つまり円の価値を決定する基軸が180度転換したのである。とすれば、ヘッジファンドなどのグローバル投資家を支配していたパーセプションも決定的に変わらざるを得ない。これまで円は世界最大のセーフヘイブン・スイテタスとしてリスク回避時に、避難先として選好されてきた。リスクオフの局面では、世界唯一のデフレにより実質価値が増価する円の魅力度が当然に高まってきたのである。しかし、今や円は実質金利が世界最低なのであるから、最も価値の減価が激しい通貨、つまり最も持ちたくない通貨となったのである。そうしたパーセプションは未だ世界の投資家に共有されているとは言えないが、これから浸透していくだろう。

また、日本の投資家のパーセプションも決定的に変化する。これまで「Cash is King」としてリスク回避に徹していた家計・年金・保険など日本の投資家は、リスク資産として外貨建て資産を増加させる必要性が高まる。現金・預金・債券に過度に比重を置いていた日本の投資主体は、外貨建て資産を大きく増加させるだろう。GPIFの運用改革はその嚆矢となるかもしれない。

以上の内外投資家のパーセプションの変化は、外国人の円ショートと日本人による海外資本流出を引き起し、大きなドル高円安の需給地合いをもたらすだろう。それに加えて米国経済の着実な回復と金融緩和姿勢の後退、地政学的観点からの米国政府の円安容認、という米国事情がダメ押し的に円安をサポートする。どう転んでも円安がしつこく定着しそうな環境なのである。

 

円安 → 企業増益が引き起す好循環
円安継続が必至であるとすれば、デフレ脱却というアベノミクスの目的は達成される。円安はインフレを継続させ企業収益を押し上げる決定的要因だからである。経済と株式の展望を考える時、企業業績の持続性が決定的に大切である。それは企業業績が、雇用、賃金(ひいては消費)、企業投資、株価のすべての変化の起点だからである。そして現在の日本では円安の定着が企業増益持続のカギとなっている。したがって円安と企業増益持続をもたらすゆるぎない好条件が備わっていることを過小評価してはいけない。そしてそのための必須の条件が日銀による質的量的金融緩和の維持にあることは言うまでもなく、それに対しても不安は全くないのである。

2014年3月期の企業業績は7割増益とほぼ史上最高となるが、これは世界最高の増益ペースである。「この大幅な増益は円安によるタナボタ利益で一過性」との評価があるが、それは間違った評価であろう。高い企業利益は、長期円高局面で日本企業が成し遂げた世界最高のコスト削減の成果が円安による売値の回復により顕在化したものであり、タナボタではない。今の増益は主として数量変化を伴わない価格効果(円安)のみによる増益であるという評価は正しい。今後はアベノミクスの成功による売り上げ数量成長が待っているということである。日本企業は長期のリストラにより損益分岐点売上高が大きく低下しているので、数量増によるギアリング効果により高い増益率が維持されると考えられる。

 

懸念材料は抑制される
たとえばインフレによる実質賃金の低下が消費を息切れさせるという懸念があげられるが、それは過渡期における不可避の一時的現象であり、やがて潤沢な利益が、大幅な賃金上昇をもたらすだろう。また、アベノミクス第三の矢、成長戦略が不発で失望を招いているという解釈が広がっている。しかし、成長戦略、構造改革、規制緩和は長期間かけて実現し、その成果も長期にわたって徐々に現われていくもので、短期の株価や経済成長の変化を説明するものではない。数年のスパンを見れば実際は雇用制度、法人税、農業改革など着実に進展している。

グローバルなリスクとしては中国の景気悪化と金融不安の高まりが懸念されるが、共産党政権の強い統治能力が駆使され、深刻な悪化は回避されるだろう。また安倍政権の歴史認識に不快感を示す米国政府が、円安批判を展開するという可能性が心配されているが、それも杞憂であろう。米国にとって、対中国包囲網構築に日米同盟の強化は必須である。それ故、日本における最も熱心な日米同盟の担い手である安倍政権のデフレ脱却努力を損なうという選択肢はない。4月のオバマ訪日を転機として、歴史認識批判は鎮静化していくだろう。

 

 

 

 

 

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