2016年12月14日

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ストラテジーブレティン 第173号

2017年情勢の基軸、強い米国経済、強い大統領、強いドル
~日本株急騰、日本経済ブームへ~

2017年の情勢の基軸は強い米国の登場に尽きるだろう。強い米国経済の強い大統領とのパーセプションにより米国過小評価の根底的修正が起き、一世を風靡したGゼロ論の誤りがはっきりするだろう。水面下で培われた米国経済の強さが、トランプ新大統領の下で顕在化し、米国通貨ドルが大きく上昇する。その波及が世界各国、各地域に特有の変化を与えるだろう。ドル債権国、対米純輸出国は有利となり、ドル債務国は不利となる。ドル円レートは1~2年で130円をゆうに超えていくと想定され、日本経済と企業収益、株価は壮大なブームとなるだろう。日経平均も1~2年で30,000円を超えていくだろう。

 

(1)健全な米ファンダメンタルズ、壮大な財政政策

 

米国経済のファンダメンタルズの健全性は歴史的水準にある。トランプ次期大統領はそれを引き継ぎ、2018年にかけて米国景気は大きなブームを迎えると予想される。以下最重要な5指標は、全て歴史的な高水準にある。米国の健全なファンダメンタルズとは、①情報/インターネット革命に支えられた空前の企業収益、②世界最強のイノベーションに基づく産業競争力、③低金利かつ潤沢な投資余力(=高貯蓄)、④健全化した財政、⑤抑制されたインフレ、である。唯一問題なのは経済成長率が鈍化し、一部の地域、階層が成長の果実を享受できていないことであるが、これらは手当次第で容易に解決できる事柄と言える。よって次期大統領トランプ氏は、財政と規制緩和による成長底上げ政策を打ち出すことができ、それを市場は評価しているのである。

 

壮大なスケールの景気浮揚効果

財政が引き上げる成長加速の連鎖効果が注目される。特に減税案は①法人税減税(税率を35%から15%に引き下げ)、②個人所得税の減税(現行7段階の累進税率を12%、25%、33%に引き下げ、最高税率を現行の39.6%から33%に引き下げ)、③キャピタルゲイン及び配当に対する減税延長、④相続税の撤廃など、壮大なものである。また累計2.5兆ドルにのぼる多国籍企業の海外留保利益の国内送金に対する時限的課税軽減(35%から10%へ)により、税収増と海外からの所得還流が企画されている。これらがすべて実施されれば10年間で5兆ドル規模となり、それは米国名目GDPの2.8%に相当する、と推計されている。これに1兆ドルと言われるインフラ投資と国防支出増が加われば、リーマンショック以降2.1%(2011-2015年平均)であった米国GDP成長率は容易に1990年以降の長期成長トレンド3%を超えていくだろう。さらにエネルギーや金融規制緩和もビジネス活動を活発にする。次回中間選挙の2018年には経済成長率4~5%のブームが訪れる可能性は大きい。それはやがて、インフレと財政赤字拡大という、2大景気阻害要因を育て、長期金利の上昇が次のリセッションをもたらすことになる。すでに失業率4.9%と完全雇用状態にある米国のインフレ加速は、巨額の財政赤字とともに2018年以降の懸念要因として浮上しよう。しかしインフレと金利上昇に対してはドル高が大きな鎮痛剤となろう。つまりドル高が続けば、予想される経済ブームは2020年までのトランプ政権の任期中持続することも十分に考えられるのである。いうまでもなくドル高は米国金融の世界支配力を強め、トランプ氏が狙う世界覇権の強化にも結び付く。

 

(2)強いドルが米国の国益に

 

かつてないドル高環境

今ほど、米国にとって強いドルが国益となる時代は、変動相場制に移行して以来、なかったのではないか。理由は、①国際分業において相互補完分業が確立し、独占的支配力を持つ米国企業が世界市場を傘下に収めており、ドル高は安く買って高く売る(=交易条件改善)ことを推し進める、②トランプノミクスはインフレ圧力を高める(レーガノミクス時と類似)、③強いドルは世界を買い占めるのに有利(米国多国籍企業のグローバルM&A等)、④強いドルが米国のプレゼンスを一気に押し上げる(防衛支出有利に、米国の世界地位・世界GDP比シェアなどが高まる)、以上4要因による。

 

米国の国際分業上の位置が大きく強化され、もはやドル安は必要なくなっている。米国企業の競争力優位は歴然としている。インターネット、スマートフォン、クラウドコンピューティング、などの情報ネットインフラにおいては世界中の人々が(知的所有権を恣意的に扱う中国を除いて)、米国企業の提供するプラットフォームの上で、ビジネスと生活をしている。金融においても米国の突出した強みは歴然である。図表1はWSJ紙による米国の大手企業の海外留保利益であるが、総計2.5兆ドルに達する米多国籍企業の海外留保利益の膨大な規模は、財の貿易ではなく直接投資とサービス輸出で稼ぐ今日的米国企業の収益構造を端的に示している。

 

 

大きく改善した米国の国際収支構造

この強みが米国の国際収支を大きく改善させている。過去10年間(2005年から2015年)に、米国経常収支は-8,067億ドル(対GDP比-5.7%)から-4630億ドル(対GDP比-2.6%)へと大きく改善したが、改善をリードしたのは金融・知的所有権料・ビジネスサービスなどのサービス収支(686億ドルから2,622億ドルへ3.8倍)と、直接投資、証券投資などの第一次所得収支(676億ドルから1,823億ドルへと2.7倍)の2部門である。他方、この10年間に米国貿易収支は2005年の-7,828億ドルから2015年-7,626億ドルへと、ほぼ横ばいであった。今後サービス収支と第一次所得収支の合計額が過去10年間の年率12.5%のペース(1,362億ドルから4,445億ドルへと3.2倍)で増加し、貿易収支が今のまま横ばいで続けば、米国はあと6年で経常収支黒字国に転換することになる。基軸通貨国米国の経常収支均衡が視野に入り始めるとすれば、それは衝撃的である。米国からのドル供給に急ブレーキがかかるのであるから。(図表2参照)

 

米国企業の市場独占・価格支配力の強さがドル高を有利にする

この状態でさらなるドル高が進行すれば、米国の経常収支改善ペースはもつと早まるかもしれない。米国企業のみがネットインフラのプラットフォームを提供しているので、ドル高になればドル建てでの収入維持を狙う米国企業は海外のサービス価格を現地通貨建てで引き上げる。需要家は代替手段がないので値上げに応じざるを得ない。他方、米国が輸入している労働集約製品の大半は、ドル高になればドル建て輸入価格が低下する。それが現地通貨建てであれば自動的にそうなるし、ドル建てであっても、互いに競争する生産国はシェアを維持するためにはドル高によって発生した(現地通貨ベースで見た)輸出価格の増加分を値下げに振り向けざるを得ないからである。単純化すれば、米国の輸出品(または海外で提供するサービス)が独占的で価格支配力が強く、輸入品は多くの対米輸出国が競合しているので生産者の価格支配力が弱いという非対称性の結果、ドル高で米国の交易条件は大きく改善していると考えられる。これは完全競争市場を前提とする経済学の常識が通用しない世界である。

 

 

図表3は米国製造業製品の輸出比率(財輸出額/製造業付加価値額)、及び輸入依存度(財内需額/輸入比率)を示したものであるが、1970年ごろまでそれぞれ10%台であったものが、今日では80%前後に上昇していることがわかる。つまり40年前はほぼ自給自足であった米国経済が今は完全に国際分業依存に代わってしまっており、それは不可逆的であるといえる。この相互依存貿易の中で、米国企業はより高付加価値の非価格競争分野、ネット・金融などのプラットフォームビジネスなどに特化しているのである。多くの供給国が競う低付加価値かつ労働集約的部門を他国から買い、独占的高付加価値品を他国に売る。この産業構造にとって自国通貨高が有利であることは言を俟たない。

 

 

 

 

トランプ氏がドル安論者だという誤解

強いドルのデメリットは米国にとっては小さい。価格競争をしている品目が少ないので競争力低下が限定的である。よく海外利益のドル換算額減少が指摘されるが、それは基本的には値上げで対処可能であろう。卑近な例で恐縮だが、たとえばWSJ紙の販売価格は円建てで値上げされている。当社が払った年間購読料は2012年94,500円から2013年112,800円、2014年129,600円と値上げされたが、それは円ドルレートと連動している。つまり2013年19%値上げ、円ドルは18%下落、2014年は14%値上げ、円ドルは8%下落となっている。

 

またトランプ氏の為替スタンスが誤解されていると思われる。中国を為替操作国に認定する等の対中批判、NAFTA批判、TPP批判などの保護貿易的傾向からドル安論者と見られがちだが、それは彼の主張するポリシーミックスとは整合的でなく、結局ドル高を容認せざるを得ないだろう。金融引き締め、財政出動、加えて軍拡の経済+地政学ポリシーミックスはレーガノミクスと相似形であり、それはドル高を再現させる。レーガン時代のドル高は極端であった。1978年のドルボトムから1985年プラザ合意までの7年間で実質実効ドルレートは5割上昇したが、当時米国当局は華麗なる無視(benign neglect)を決め込んだ。しかしレーガノミクス下のドル高は米国企業の競争力を大きく低下させ貿易赤字が急拡大、財政赤字とともに双子の赤字が政治問題となり、1985年のプラザ合意によるドル高修正でトレンドは大転換した。今日とレーガン時代との相違点は、前述のとおり高付加価値分野の一部が米国企業のグローバル独占によって不完全競争状態になっており、ドル高でも米国の対外赤字が増加しにくい(マンデルフレミングモデルが働かない)と想定されることである。それはよりドル高圧力を一層強めることになる。

 

中国危機封印のためのドル安は終わった

なおここで付言しておくと、2016年のドル安は米国経済のファンダメンタルズの弱さを反映したものでは無く、一過性のものであった。それは1998年のルーブル危機対応の米金融緩和・ドル流動性供給によってもたらされた一過性のドル安と類似している。2016年のドル安は新興国、特に中国危機に対応するものであった。ルーブル危機の時には、危機が鎮静化した1999年以降、米国は利上げを再開しドル高トレンドが復元された。今回も中国の景気底割れ回避策と資本規制強化により中国通貨危機は当分封印されたとみられるので、ドル高トレンドが復元されつつあると解釈される。

 

 

(3)ドル高の連鎖、勝ち組日本、負け組中国

 

中国でドル高による悪連鎖が懸念される

ドル高のデメリットは主に海外において現われるだろう。米国経常収支が改善している中でのドル高は、国際的なドル調達難をもたらす。また各国通貨の減価によりドル建てで見た国際流動性が減少し国際金融がタイト化する。またドルベースで世界経済の縮小や、海外でのドル建て債務の高負担化が起きる。各国は自国通貨を防衛するためには引き締めを余儀なくされるが、他方、国内経済の困難に対処することも迫られる。結局、各国は財政に依存した経済対策を強めざるを得ないだろう。

 

特に困難化すると思われるのは中国である。まず米国好況・ドル高・米金利上昇により中国からの資本流出圧力が高まらざるを得ない。人民元の下落は巨額の対外債務を負っている中国の経済主体にとっては、大きな負担増をもたらす。中国は4.6兆ドルと外貨準備高3.2兆ドルの1.4倍の対外債務を負っているため、ドル高・人民元安が続けば深刻な打撃を受けるであろう(債務がドル建てであれ人民元建てであれ、債権者or債務者に発生する損失は変わらない)。

 

そこで人民元防衛策を余儀なくされるが、それは二律背反となる。人民元の下落を抑制する政策は、ただでさえアジアの競合諸国に比して割高になっている中国の人件費を一段と高め製品の競争力を削ぐ。また通貨防衛をすれば国内金融は引き締まるが、それは不動産バブルの崩壊リスクを高め、国内金融不安を顕在化させるかもしれない。通貨価値を維持しつつ国内経済のてこ入れを図るには、財政政策に一層働いてもらうしかない。中国の財政は比較的健全であるので、財政片肺の景気刺激ではあっても、数年間は経済の底割れは回避されるのではないか。

 

しかし中国の困難は、通貨のみならずトランプ政権の対中貿易摩擦という方面からもやってくる。今日では米国の対外貿易赤字の5割を占める中国がトランプ政権の貿易摩擦の主な標的であることは明らか。知的所有権の侵害、サイバー空間での不正アクセス、国内市場の極端な閉鎖性、政府によるあからさまな自国企業優遇、外資投資規制を維持しながらの世界の高技術企業の買収など、中国の不公正な貿易通商慣行は、批判と是正の対象になっていくだろう。実力以上の内需水準の維持を余儀なくされるため輸入は減り難いが、実力以上の通貨高の維持と貿易摩擦により輸出は一段と困難になるかもしれない。貿易黒字の減少、純輸出の減少は中国経済のもう一つの成長制約要因となるだろう。

 

ドル高の恩恵は日本に現れる

他方、ドル高の恩恵は、米国との間で競合商品を持っている国、特に自動車対米輸出国やドル債権保有国に現れるだろう。その最大の受益国が日本であろう。円ベースでの輸出単価の上昇により円安が企業収益の大きな押上げ要因になることは言うまでもないが、より大きいのは日本の対外資産の増価である。日本の対外資産と負債の差額(純資産)は2.8兆ドルと世界最大級であり、この差額分はそのままドル高となれば、円ベースで増価する。10%のドル高で2800億ドル(=25兆円)の差益が発生する計算となる。それはほぼ3.5兆ドルに上る海外証券投資の元本増価、直接投資・証券投資から生まれるインカムゲインの増価となって日本経済を大きく支えよう。

 

 

 

 

(4)好循環に入る日本、真正の失われた20年脱却へ

 

リスクテイカーが報われる環境整う、日本株急伸へ

日本でもアベノミクスの第二弾による財政金融総動員のリフレ政策が本格化、労働需給・不動産需給改善による賃上げ、家賃上昇に加え、円安と原油価格の下落一巡により、物価上昇率が高まる。実質金利の低下は、国内のリスク資産投資を大きく鼓舞するだろう。2012年11月から2015年6月8,600円から20,860円への2.4倍上昇がアベノミクス相場第一弾であったが、今16,000円を起点とした第二弾のアベノミクス相場が始まった可能性は濃厚である。その場合、中期2020年にかけて30,000~40,000円のスケールになる可能性もある。

 

20年ぶりの復元、GDP>金利

リスクテイカーが報われるか、裏切られるかの最も重要な条件は、経済の実勢である名目GDP成長率と、そのコストである名目長期金利との関係であろう(名目成長率と名目金利の関係は、実質成長率と実質金利との関係と同義である)。図表9に見るようにアベノミクス/量的金融緩和導入前と、後とでは全く変わっていることが明らかであろう。アベノミクス前の20年間(1992年から2012年まで)は金利>GDP成長率の関係が続き、金利(=信用)が経済成長の制約要因であったことが明らかである。この間リスクテイカーは裏切られ続けた。しかし2013年以降、両者の関係はGDP成長率>金利とはっきりと逆転し、金利(=信用)が経済の促進要因になっていることが明らかである。この環境下で9月末日銀は10年国債利回りをゼロに固定することを柱とする新金融政策、イールドカーブコントロール政策を打ち出した。借り入れコストが長期にわたってほぼゼロに固定される一方、国内の物価上昇率が高まることが見えている。また米国では長期金利が大底をつけ大きく上昇に転じている。リスクテイカーが報われる絶好の環境が整っている。日本の負のバブル是正がいよいよ始まりつつあると考えられる。

 

 

 

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