2010年07月27日

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ストラテジーブレティン 第21号

アメリカは日本型デフレには陥らない
~金利低下は吉兆である~

Unusually uncertainの鍵は心理

再度悲観がまん延している。主因は株価下落による心理悪化にある。昨年大底から の株価回復(S&P500指数では80%上昇)後のテクニカルな調整が大幅であった。今のと ころ4/23の高値1217から7/2の安値1022まで16%低下し、値上がり分の1/3押しの形と なっている。その結果、特に一般人の間で悲観が強まった。ウォールストリート・ ジャーナル紙(7/16日)は、一年先の景況見通しに関して、エコノミスト(55人のアン ケート)の間では64%が改善、9%景気悪化と楽観論が強いのに対して、一般人に対す る世論調査では33%が改善、23%が悪化と両者が拮抗していることを報告している。 そうした中でのバーナンキFRB議長の議会証言でのUnusually uncertainとコメント は市場の悲観を増幅する形となり、直後の7/22の米国ダウ工業株指数は100ポイント の下落となった。ここはなぜ悲観が強いか、なぜUnusually uncertainかをよく吟味 する必要がある。 なぜUnusually uncertainか。①普通なら大幅に進展しているミクロ調整が雇用など 次のアクションに結び付くはずなのにそれがなかなか起きない、②リーマンショッ クのトラウマ、ギリシャ危機による株価下落、世界経済の不透明性により心理悪化 が増幅されている、の2要因が考えられる。いずれも時が解決するもののように思わ れる。

米国経済は恐ろしくスリム、ファンダメンタルズに問題はない

専門家のエコノミストが強気であることからわかるように、ファンダメンタルズ面 で大きな不安はない。企業も家計も住宅も調整は完了し贅肉は完全にそぎ落とされ ている。また経済のエンジンである企業利益は大きく回復し(図表3、4)企業は空前 の資金余剰の状態にある。ただ雇用回復は依然低調で、故に消費回復も緩慢、在庫 投資一巡後の経済成長は一時的に鈍化しているのである。また住宅取得減税の停止 による住宅需要反動減が、景気対策終焉後の景気息切れの懸念を強めている。しか し景気回復の初期に雇用回復が停滞するのは珍しいことではない。図表5に見るよう に過去平均では雇用が増え始めるのは景気回復後9カ月たってからである。特に今回 は①グローバリゼーション、②インターネット革命により生産性が大きく上昇して おりjobless recovery =productivity recoveryが進行しているのである。 ここにきて株価下落⇒心理悪化⇒貯蓄率上昇⇒消費鈍化という傾向が現れているが 、株価の下落が食い止められている限り、全く心配はいらないと言える。

2番底に陥るとしたらそれはもっぱら心理悪化
→株価下落をもたらす政策ミス

株価下落の下での景気回復はあり得ない。唯一の懸念は政策の失敗により株価下落 を招き、心理悪化の悪循環が始まることである。それは①当局の意思欠如、議会の 妨害、②市場の拒否・金利上昇・ドル安、のいずれかによって起きるが、今はその どちらも全く不安はない。バーナンキFRB議長は必要なら準備預金金利の引き下げ、 資産購入の再開、低金利持続の意思表明などの追加策があることを表明した。大恐 慌専門家のバーナンキ議長が、間接的に資産価格(特に株価)を念頭に置いているこ とは間違いないであろう。また悲観論者が何時も懸念するドル安・金利上昇など市 場の反乱が起き追加対策が実施できない、などということは全く起きていない。逆 にドル高・金利低下の進行で市場は更なる政策出動とリスクテイクを求めていると 解釈できる。

日本型デフレにアメリカが陥らない2要因

米国が日本型の長期デフレに陥らないと考えられる理由は、①日本のデフレは超円 高の下での企業のコスト削減圧力が主因であったこと(投資ストラテジーの焦点287 号参照)、②日本が陥った「金利裁定の喪失」に米国が陥らないこと、の二つによる 。①は既にレポートしているので、②について触れる。

資産デフレを阻止するバーナンキ議長の決意

日本の失われた20年の間、長期金利が低下し続けたが、それは将来の経済停滞を際 限なく予見し続けたと言う点で凶兆であった。しかし、これは経済合理性から考え れば、奇妙なことである。低金利はビジネスの資本コストを引き下げ投資活動を活 発化する。また金融資産価格の理論値を引き上げ、リスクテイクを誘発する。その 結果、経済は回復に向かうと言う、オートマティック・スタビライザーが作動する はずであるが、日本の場合にはそれが全く作動しなかった。それは資産デフレが永 続するという間違ったトラウマが定着してしまったからである。日本の場合長期に わたって資産リターンの異常な格差が定着した。つまり金融市場の金利裁定機能が 停止した。現在長期金利1%、配当利回り2%、株式益回り6%、不動産キャップレート 7%と言う大きな格差が存在している。なぜ人々は高リターンの株や不動産を買わな いのだろうか。それは株式を買って6%の表面リターンを得たところで5%以上値下が りがあればそれは帳消しになる、との読みが働いているからである。そして資産価 格が恒常的に値下がりすると思い込ませるに当たって、政策の誤りが大きく寄与し てきた。バーナンキ議長はUnusually uncertainという強い言葉を使って、日本型資 産デフレメンタリティーへの転落を阻止するとの強い決意を示したと考えられる。 それは株式にとって大いなる朗報である。

米国株式はスイートスポット

米国が日本型のデフレを回避できるとすれば、現在は株式投資のスイートスポット と言える。図表6に見るように、米国株式はイールドカーブ(長短金利差)サイクルと 密接に連動してきた。過去、短期金利が引き上げられ長短金利差が縮小する場面は 株高、短期金利が低下し金利差が拡大する場面では株安局面、という対応関係があ った。今はイールドカーブ(長短金利差)はピーク水準にあり、今後は長期金利の低 下といずれ起きる短期金利の上昇によりイールドカーブはフラット化(金利差縮小) するものと見られる。それは力強い株高をもたらす金融環境と言える。

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