2018年11月06日

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ストラテジーブレティン 第212号

市岡vs.武者 どこにリスクはあるのか、その深刻度はどれほどか
~ベアマーケットの始まりではない、一時的調整はよい買い場

(1)  前例のない株価急落

 

櫻井) 突然の市場崩落が、今年に入って2月と10月の2回も起こりました。10月は月初から米国株式は10%、日本株式は14%の下落となった。本日はこの株価急落をどのように考えたらよいのか、その道30年のベテラン、信託銀行、生命保険会社などでファンドマネージャーや調査担当を経験され、今相場研究家として独立されている市岡繁男さんをお招きし、武者さんと徹底討論をしていただきます。この間の市場急落の顛末と特徴をご説明ください。武者さんいかがですか。

 

武者) この10月の株価下落はファンダメンタルズを見ている多くの人々にとっては青天の霹靂という驚きの下落だったと思う。10月単月で最初と最後を比較した値下がりは日経で2,200円に達しました。これはリーマンショック以来最大の下げ幅と言われています。下落率が9.1%というのは2016年6月のBrexitの時、一時的に9.6%と言われているので、それに次ぐもの、幅にしても率にしても驚くべき下落であった。その原因があまりはっきりしない、正体が分からないから益々恐怖心をかきたてて、人々は狼狽しました。この動きをどのように解釈するべきか、が問われる。

 

今回の10月の下落の特徴として、まず第一は世界的な株価下落ですが、かなり各国間のギャップが大きいということ、アメリカの株価は依然として年の初めに比べればプラス、日本は1割下落、ドイツや韓国は15%、中国は3割くらいの下落と国ごとに格差が大きい。それからもう一つの特徴は、普通株価が下がるときには、他の金融資産も大きく動くが、今回の市場波乱は株式市場だけにとどまっていて、他に波及していないということ。株価が下落すると必ず起こるのは円高だが、今回はドル円レートが111円、112円と殆ど動いていない。もう一つはクレジット・リスクプレミアム、通常人々が危機意識を高める時には株式と同様にリスクのある債券である社債が値下がりする。なぜかと言うと景気が悪くなって企業が破綻するとか、利益が出なくなって借金が返せなくなるというリスクが高まるから体質の悪い企業に求める上乗せ金利をリスクプレミアムと言いますが、それが大きく上がる。リスクプレミアムの歴史的な推移をみると、図表8はアメリカのトリプルBの社債のリスクプレミアムのグラフですが、リーマンショックの時には1929年のアメリカの大恐慌の時よりもっと上昇した。その後危機は沈静化しましたがリーマンショック以降の長期的な経済拡大の中でも一時的にマーケットが動揺した時期はありました。例えば2011年ユーロ・ギリシャ危機、2015~16年チャイナショック、そういう時にはリスクプレミアムは上がる。ところが今回は2月も10月もほとんど上がっていない。今回の下落は株式市場に限られていて全般的な金融市場の動揺にはなっていないという事が注目される。

 

 

 

 

(2) 巻き起こる悲観・警戒論・・・ファンダメンタルズは株価急落を正当化するか

 

櫻井) これほどの突然の暴落、日経平均で見て単月での高値から安値への3000円の下げは2008年のリーマンショックの時以来といわれていますね。これほどの急落が起きたからには、ファンダメンタルズに深刻な根拠があるに違いない、との見方が台頭している。市岡さんはどのようにお考えですか。

 

市岡) 私は今回の急落は起こるべくして起きたという面があると思う。最も注目するべきなのは米国長期金利の上昇である。図表3は米国10年国債利回りとその10年移動平均、株価の推移を示したもの。赤いラインがアメリカ10年国債の利回り、緑が10年移動平均、グレーが株価であるが、過去を振り返ると10年債利回りが10年移動平均値に近づくと必ず何か危機が起こっている。1987年ブラックマンデー然り、1994年メキシコ金融危機(テキーラ・ショック)然り、2000年のITバブル崩壊然り、2008年のリーマンショック然りである。今回はそれに次いでいる。もっともすべてが深刻な金融危機に結びついていたわけではない。メキシコ金融危機の時は、株価の下落は2か月で10%と小幅で、危機はほどなく収束した。アメリカのファンダメンタルは問題がなく、金融危機は海外にとどまった。

 

それではなぜ、今、10年国債利回りの10年移動平均を問題にするのか、を説明しよう。機関投資家はほぼ毎週国債を買う。520週(=10年)毎週毎週買った平均が10年移動平均値になるわけで、それは機関投資家の平均コストといえる。それが今2.5%、一方、現実の金利は今日は3.15%位(対談日は11月1日)。一時3.23%をぬけたという事で、保有債券の含み益がなくなり、含み損状態に陥ったのである。そうなると機関投資家はリスクオフという形になって資産を減らす動きが出てくる。

 

 

それを示すグラフ(図表4)を紹介しよう。青いラインがアメリカの銀行株指数、赤いラインがアメリカの10年国債の利回りであるが、5月にも10年国債利回りが3%をぬけた。だがその時は株価は平静であったが、今回9月下旬3%を超えた途端に銀行株指数が下落し始め株式市場も銀行株が売られたという構図である。図表5(米国10年国債利回りと銀行の証券含み損益率推移)も注目される。赤いラインがアメリカの大手銀行が持っている証券の含み損益率である。含み損益率とは保有証券の含み損益額を純資産で割ったもの。現在含み損益率は3%、つまり自己資本の3%が棄損している状況である。過去がどうだったかを振り返ると、ITバブルの崩壊時、リーマン危機の直前いずれも、含み損率が3%ラインを超えたときに起きており、これは結構深刻なシグナルである。私はこれを見て株価が調整し始めたと思っています。

 

それを示すグラフ(図表4)を紹介しよう。赤いラインがアメリカの銀行株指数、黒いラインがアメリカの10年国債の利回りであるが、5月にも10年国債利回りが3%をぬけた。だがその時は株価は平静であったが、今回9月下旬3%を超えた途端に銀行株指数が下落し始め株式市場も銀行株が売られたという構図である。図表5(米国10年国債利回りと銀行の証券含み損益率推移)も注目される。赤いラインがアメリカの大手銀行が持っている証券の含み損益率である。含み損益率とは保有証券の含み損益額を純資産で割ったもの。現在含み損益率は3%、つまり自己資本の3%が棄損している状況である。過去がどうだったかを振り返ると、ITバブルの崩壊時、リーマン危機の直前いずれも、含み損率が3%ラインを超えたときに起きており、これは結構深刻なシグナルである。私はこれを見て株価が調整し始めたと思っています。

 

  

櫻井) それでは武者さん市岡さんのご指摘に対してコメントをお願いします。

 

武者) 今の市岡さんの分析は、殆どの人が知ることがない新鮮な指摘で、なるほどこのようなリスクもあるのか、とあらためて感じた。長期金利の上昇によって銀行が今持っているポートフォリオの中身が悪化し、それが結構な規模になっていることはその通りだと思う。しかし、それが市場や経済にどれほど大きなインパクトがあるのかに関しては、今のところ深刻な状態とは言えないのではないか。アメリカの金融機関のバランスシートはリーマンショック後の相次ぐストレステスト以降かなり健全化している。それは融資資産に関してで、債券保有のマイナスはカバーされているのではないか。中央銀行FRBも当然モニターしているはずであるが、危険とのメッセージは出されていない。今直ちにアメリカ銀行のバランスシートが悪化し、それが原因で貸出圧縮とか信用の悪循環が始まるリスクがあるとは考えられない。また長期金利が上昇すると、銀行にとっては貸出金利が上がるので、利ザヤが改善するというプラス面もある。持っている資産の中身が悪くなる一方、利益が出やすくなる。

 

重要なのは、3%まで上昇したアメリカの長期金利のレベルが経済全体の中でどのようなレベルなのか、金利水準を見るのは実際の景気との兼ね合いでどうかと言うのが大事である。図表6は米国10年国債利回りと名目経済成長率を表したもの。名目経済成長率とは経済の果実、果実を得る為のコストが金利、果実とコストの兼ね合いが重要な視点であるが、今のアメリカの名目経済成長率は6%近くに上昇、景気が良い。他方で長期金利は3%強まで上昇しているが、実体経済との関係で見れば今の金利水準は依然として十分に低いと言える。過去にさかのぼって見ると1980年代、90年代のアメリカの長期金利は名目経済成長率とほぼ同じレベルにあった。ここ10数年、景気がいいのに金利が上がらなくてグリーンスパンFRB議長が謎だと言っていたことが起きた。理由ははっきりわからないが、企業にとってはビジネスは好調なのに金利が低いという、非常に利益が出やすくリスクを取りやすい環境が続いてきた。金利が3%を超えた現在もこの関係は大きく崩れてはいない。まだ深刻なレベルに行っていないように思う。とはいえ、来年、再来年と金利上昇が続き4、5%を超えてくるとリスクの連鎖が起こり得る。警戒心をもってウォッチし続けるポイントであると思う。

 

 

櫻井) 市岡さん、武者さんのコメントに対していかがですか?

 

市岡) アメリカに関しては全くその通りだと思います。アメリカの銀行企業業績は悪化していない。図表7は日本アメリカヨーロッパの銀行株指数 リーマンショックの安値を100としてそれぞれ対比したもの。赤日本・黒ユーロ・青がアメリカ。アメリカの株はリーマンショック以降6倍になり今下がったと言ってもまだ5倍と高水準です。それに信用スプレッド(トリプルB格社債と10年国債の利回り格差)は危機の時には拡大して信用状況が悪化するのだが、今回は全然下がっていない。アメリカについてはあまり心配はないのではないか。

 

 

 

 

しかし、94年メキシコ金融危機の時には米国株はほとんど動揺しなかったが、新興国に問題がでてきた。今はそのパターンではないか。図表7に見るように、ユーロ圏の銀行株価は、リーマンショック時の大底(100)から現在は109と全然上がっていない。ここに本当の問題が隠されているのではないかというのが一点。もう一点は中国である。

 

まずヨーロッパの方は、イタリアでポピュリスト政権が誕生し、予算の問題でEU当局と対立が引き起こされている。その結果ドイツとイタリアの金利差が拡大し、2011年のギリシャ危機のレベルまで高まってきている。さらに金利差は、イタリアの次にスペインとドイツとの間で拡大し始めている。何故スペインが問題なのかと言うと、スペインがブラジル、アルゼンチン、メキシコ、チリ等の対外債務、通貨不安が高まっている諸国に対して、圧倒的な貸し出しシェアをもっているからである。少し前に債務問題がクローズアップされたトルコに対しても同様である。中南米諸国とトルコに対する外国銀行融資におけるスペインのシェアはチリ59%ブラジル45%メキシコ45%、トルコ36%と高い(図表10参照)。そういった国が動揺した場合、これが火種になる可能性がある。

 

 

 

もう一つの問題点は、中国における債務問題の深刻化である。図表11は2009年リーマン危機以降の主要国の債務増加額の推移であるが、中国が28.5兆ドル、アメリカは13.8兆ドル、日米を除く先進国(欧州、カナダ、オーストラリア)12.8兆ドル、中国以外の新興国11.1兆ドル、日本0.8兆ドルと、中国の借り入れが全体の4割と圧倒的、対照的に日本はほとんど増えていない。

 

 

 

図表12はBIS国際決済銀行が発表したGDPに対する家計と民間企業の債務比率であるが、中国の比率は直近(2018年1Q)で213.7%と危機水域にあることがわかる。200%の水準で線を引いているのは、これを超えた時点でバブル崩壊が起きた事例があるからである。1989年末に日本は200%を超え1989年にバブルが崩壊した。その後銀行が追い貸し(左前になった会社に融資を増やす)をしたことで比率がむしろ上がり、ピークは1993年4Qの219.5%であった。スペインも同様で2005~6年に200%を超えたところで住宅バブルが崩壊しリーマン危機に至っている。今般、中国、カナダ、オーストラリア、韓国の民間債務比率がその200%ラインの近辺にある。中国はもとより、カナダは中国からの移民が多く、オーストラリアは中国との貿易のウエイトが39%、韓国も31%と高い。いずれも中国との関係が深く、債務比率の大幅な上昇は中国がらみ、といえる。この状況下での金利上昇は怖い。

 

 

今の様に金利が上がってくると、民間債務の利払い負担は大変になってくるだろう。図表14は米国、中国、ユーロ圏、日本の民間債務の「利払い額/GDP」比率をみたもので、推定利払い額は、民間債務残高×四半期末10年債利回りで計算している。米国の同比率はITバブル崩壊時8.1%。リーマンショック時8.3%だった。それに対して中国は、今7.8%。2017年4Qでは8.1%に達していた。しかも中国の民間債務の金利は国債利回りよりも相当高いと思われること、中国のGDP自体が相当過大推計されているであろうこと、などから、中国の実際の利払い負担は著しく重いと推察される。そこが中国の最大の不安材料である。

 

 

意外と知られていないのは、中国が消費や生産する素原材料の世界シェアが著しく高いことである。セメントの生産量は全世界の59%、銅消費量53%、ニッケル消費量は50%、粗鋼生産量49%と軒なみシェアが5割を超えている。また自動車の生産台数も世界の30%を占める。それだけに中国の景気が陰ると世界の景気が落ちてくる影響は無視できない。これを敏感に示すものが非鉄価格指数であり、それは人民元とほぼリンクしている。人民元が中国経済の指標だとすると、中国経済の鈍化で非鉄相場が下落していることがわかる。日本株の今年の業種別下落率ワーストは非鉄や海運だが、これは中国の景気鈍化に原因があるのではないか。以上が当面のリスク要因と見ています。

 

 

 

 

櫻井) 武者さん、市岡さんのコメントに対していかがですか?

 

武者) 確かに中国は多くのリスクをかかえている。将来中国の債務と金融不安が世界の火種であるという事は私も全く同感です。ただ今の中国経済がその様な危機に向かっているかと言えば時期尚早だと思われる。図表17は中国のミクロ動向を示す4つのグラフ、鉄道貨物輸送量、粗鋼生産量、発電量、不動産開発投資であり、これらは実態を伴わないGDPよりは、短期の景況を示すものとして信頼できる。リーマンショック以降一番厳しかったのは2015年のチャイナショックが起こった時期、2015年は鉄道貨物輸送量、粗鋼生産量、発電量、不動産開発投資は全部マイナス。当時は金融為替市場に問題があっただけでなく実態経済が失速した。その後の政策テコ入れによって経済は回復し、今はそれぞれはっきりプラスで推移している。特に不動産開発投資は、2015年マイナスに落ちたところから10%ペースの伸びが続いている。人が住まないところに住宅を作っているにもかかわらずまだまだ作り続けている。

 

 

底割れをするには程遠い。加えて中国政府は米中貿易戦争の結果起きるネガティブな要素を抑え込むために大胆な金融緩和と財政出動を始めている。インフラ投資に力を入れ、チベットまで高速鉄道を引くプランも出されている。採算がとれるか疑問だがこれだけのことをすれば中国の景気はまだ失速しないと言える。潜在的なリスクとは別に今起こっている事は、景気の押上げなのではないか。アメリカの長期金利の上昇が引き金となり中国でいずれ危機がおこる、と私も考えている。でもそれはいまではなくもう少し先に起こる話ではないか。

 

櫻井) それではお二人の結論は、心配する根拠はある、しかしそれらは潜在的危機要因であり、直ちに危機が発生するものではない、ということでよろしいですね。

 (3) 世界株式市場の変質 ~なぜこれほどの急落が起きたのか~

 

櫻井) ファンダメンタルズ、経済や政治などの実態面で深刻な問題がないとすると、原因はどこにあるのでしょうか。武者さんご見解を説明してください。

 

武者) 今年の2つの市場波乱、もっぱらテクニカル要因の可能性高い。第一の理由は、AIトレーダーとIndex ETF化により株式市場が変質していることである。ここ数年市場のメインプレーヤーに躍り出たCTA、リスクバリティファンドなどは、すべてAI トレーディング、もはやトレードは機械の領域になった(CTAとはすべての金融商品を投資対象とするアルゴリズムヘッジファンド、リスクバリティファンドとは自動的に保有資産のリスクが均等化するアルゴリズムを組み込んだヘッジファンドで例えば株が下落すれば自動的に株を売る仕組みを内在している)。これらの投資ファンドは際限ないデータをもち感情に左右されず、巨額の資本を支配するAIがトレードしており、彼らを相手に人間がトレードしても勝ち目はない。安く買って高く売ろうとすれば、高く買って安く売らされることになりかねない。人間がトレードしていた時代の常識、日柄感、値幅感なども通用しなくなっている。

 

また、個別株、企業調査に基づくボトムアップに代わり、インデックス、ETFが株式市場へのメイン資金経路となった。米国株式投信のインデックス比率は2009年の19%から2018年には44%に上昇している。巨額の資金がマクロの事情によってトップダウンで市場に流出入し、インデックス採用銘柄の売買を通して市場を翻弄している。ただ、AIやインデックストレーディングは長期的には中立であり、売った後は必ず買い戻さなければならない。投機売りの後に、大きな投機買いが始まるだろう。

 

あと一つの株式市場内部の事情として、自社株買い自粛期間(決算発表日前4週間)中に、株式売りが仕掛けられたとみられる。ここ数年、米国では自社株買いがほぼ唯一の株式購入主体であり、対照的に家計と投資信託は売り主体であった。例えば2015年~2018年前半までの3年半累計でみると、自社株買い2兆600億ドルに対して、家計は4100億ドル、投信は3300億ドルの株式を売り越している。つまり自社株買い自粛期間は株式需給が極端に売り越しに傾く時期であり、容易に仕掛け売りが奏功する時期といえる。相場急落の2月初め、10月初めはまさしく自粛期間の開始と照応している。となれば自粛の終了とともに株式需給は大反転するはずである。

 

このように考えると10月の株式急落は、そのあと年末から来年初めにかけての、反動上昇のステップボードとなるかもしれない、とも考えられる。

 

 

櫻井) 市場内部要因が急落の真犯人だ、という見解ですが、市岡さんのご見解はいかがですか。

 

市岡) ブラックアウト期間に動いたというのは鋭い指摘だ。AIがトレードの中心になっているのでなかなか普通の人が勝ちにくい相場になっているのは確か。囲碁とか将棋とかAIに負けていますが、言われているのは定石にとらわれずに意表をつく動きがあるということ。株式相場でもそんなことが起きているように思う。

 

(4) 今後の見通しは、楽観論の立場で見れば

 

櫻井) お二人とも、急落の原因は、市場内部にある。ファンダメンタルズは、心配はあるが、現時点では基本的に大丈夫、ということですね。それでは今後の市場をどうご覧になっていますか。市岡さんお願いします。

 

市岡) 今後の相場で見極めは原油市場。先ほど社債と国債のスプレットが拡大していないと述べたが、ジャンク債と国債のスプレッドでは、その傾向は顕著である。これはアメリカの地場石油会社が発行する社債がジャンク債の指標銘柄がとなっているからだ。地場の石油会社は借金漬けで財務内容が劣るが、石油の値段が高いとジャンク債が人気を集め、信用スプレットは拡大しない(図19)。逆に言えば、石油の価格が下がるとジャンク債のスプレットが拡大することになる。今はまだ心配がないが、これが50ドル台になると要注意かなと思います。

 

 

櫻井) 武者さんはいかがですか

 

武者) 石油が急落する、世界の需要が大きく落ち込むというようなときには、リスクが高まる、それが起きそうなのはアメリカではなく中国である。中国の実態経済が落ち込む事があるかは注意深くモニターしなければならない。2015年に中国は一度景気底割れの恐怖を経験しているので、長期的には問題はあるが短期的にはてこ入れをして経済を押し上げ、相場も下支えすると思う。中国は11月末にはサミットがもたれ貿易戦争に一定の決着といいますかアメリカの要求に中国がある程度応えて、一旦撃ち方やめになる可能性があるだろうと思う。アメリカがイランに対して経済制裁をしていますが、今までこれに批判的だった中国は一人イランからずっと石油を買っていた。WSJによれば11月以降イランから石油を買う行動をとっておらず、中国はアメリカのイラン制裁に同調するようだと報道している。アメリカから次々に押し込まれている中国は妥協を図るためにかなり譲歩を始めている。米中貿易戦争は長期にわたる問題だが、短期的な経済と市場に与える影響は、行き過ぎるとアメリカにとっても中国にとっても自滅行為なので、ある時点で一旦落ち着くのではないか。

米中冷戦問題、中国失速により原油価格が急落し、それがきっかけになって悪循環が起こる問題、金利上昇が連鎖的な金融不安を起こしそうだという問題、いずれも問題ではあるけれども短期的に心配する事ではないだろうという事が明らかになるでしょう。またAI,ETFがマーケットを攪乱しているが、基本的にマーケットニュートラルなので、売った後は買い戻すので年末から来年にかけては市場は大きくリバウンドするのではないか。

 

(5) 投資家はどう対応するべきか

 

櫻井) 最後に投資家に対するアドバイスをお願いします。

 

市岡) 季節の変わり目に春一番や台風がある。相場の世界も同じで、この5年間ハイテクが上がってきて、ダメなのは重厚長大、鉄鋼、非鉄であった。しかし今回のように、株価が急落すると相場の主役も変わるものだ。図表20は新日鉄住金と村田製作所の相対株価で、ハイテク株と重工長大産業株の天井と大底が、株価の暴落を挟んで、ほぼ同時に出現していることがわかる。私は年末から来年にかけて株価は上がると見ているが、その場合の主役はこれまで上がり続けたハイテク株ではなく、新日鉄住金のような重厚長大産業、あるいはエネルギー、非鉄関連株になると思う。今エネルギー非鉄が下がっているのは、中国がだめだから。しかし中国需要が立ち直り、相場が変われば、日本経済にとっても悪いことではない。

 

 

 

 

武者) 中国たたきは他の国にメリットになる面がある。中国がアメリカにたたかれて設備投資が出来ない、あるいは企業は中国に対する投資を引き揚げている。しかし最近中国をやめてどこで作るのだと企業は新たな生産拠点の開発を始めている。今度は別のところで投資を始めるプラス面も出てくる。グローバルな景気動向は株安もあってしばし停滞するかもしれないが、来年前半復活してくる可能性はある。

 

投資家の皆さんにアドバイスしたいのは、人工知能と戦わない方が良い。碁や将棋で勝ち目がないようにトレーディングでも勝ち目はない。勝ち目がないところに誘い込まれるような株式投資の仕方は避けるべき。

 

絶好の安値買いの機会に恐怖を誘導されて売らざるを得ないなどとならないようにすること。余裕資金で、過剰なレバレッジをとらない投資は長期投資を可能にし、大きな果実を得る近道と言える。

 

櫻井) 興味深い対談、どうもありがとうございました。

 

市岡、武者) ありがとうございました。

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