2010年08月30日

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ストラテジーブレティン 第26号

恐怖心を封じたバーナンキ議長の闘争宣言

最も低コストの景気対策は、当局と市場との良好な対話であろう。当局が経済困難の現状正しく把握し、そこから脱却する適切な手段を持ち、それを行使することで景気を改善できるとの確信を市場に与えられれば、市場価格の上昇と心理の改善によって、自己実現的に景気は回復できる。

The issue is not whether we have tools. We do!

8/27日ジャクソンホールにおけるバーナンキ議長スピーチは、市場に大いなる安心感を与えた。①敵=目的(デフレを回避し持続的経済成長と雇用を実現すること)は明白である、②戦う手段はある(飛躍的に改善した経済ファンダメンタルズとFRBの非伝統的経済政策)、③勝利するためあらゆる手を打つ、とのクリアーな主張は、④勝利の可能性が十分にある、とのERBの見解に大きな説得力を与えた。株価は前日までの大幅下落から一転し1.6%の大幅上昇となった。このスピーチにより一時高まった二番底懸念、日本型デフレ陥落の懸念は緩和され、市場を覆い始めた「恐怖心に突き動かされた極端なリスク回避心」は解消していくかもしれない。

敵はデフレ宿命論に人々が陥ること

8月に入ってから市場で高まったのは、異様な二番底懸念と金融危機再燃の心理である。再度景気後退に陥り住宅などの資産価格が再下落すれば金融機関のバランスシートは悪化し金融危機が再燃し、信用収縮が恐慌事態を引き起こす。結局2009年以降の景気回復と市場価格の上昇は偽りの夜明けだったのであり、金融危機は全く解決していない、という「恐慌メンタリティー」が再登場したのである。これは当社が2008年以来批判してきたてきた「自己実現的予言(self-full-filling prophecy)」そのものである。確かに「恐慌メンタリティー」に支配されて資産が売られ二番底に陥れば、心理悪化→資産価格下落→信用悪化・金融危機→経済の更なる悪化、という悪循環に陥る。つまり悲観論=恐怖心そのものが経済を破壊する原因となる事態である。 ルビーニ教授やブラックスワンの著者ナジブ・タレブ教授は2008年の恐怖の事態が再来するとの危機感をあおっている。グリーンスパン前FRB議長は「住宅価格が再下落すれば景気再後退のリスクが高まる」と第三者的コメントを発している。しかし「革命が間近に迫っているといつも言い続ける共産主義者のように、deflation hawks(デフレ主唱者)は二番底の景気後退を主張し続けているが、IMFエコノミストMeier氏は賃金と価格には粘着性がありちょっとやそっとではデフレには陥らない、との検証結果を発表している。」(8/27/2010ファイナンシャル・タイムズ紙)

ファンダメンタルズの改善と当局の決意

バーナンキスピーチは事実と論理に基づいて、そうした悲観論が誤りである可能性が高いことを説明し、市場を納得させた、と言える。息切れ現象が現れているとはいえ、米国経済のファンダメンタルズは2009年以来著しく改善している。バーナンキ氏は2011年成長率はピツクアップするとし、その根拠として①家計のバランスシート調整が予想外に早く進展、②金融政策の支持、③銀行融資姿勢の正常化、④資産収入比率の長期平均値への回帰などを挙げている。もちろん予測は常に不確かではあるが、持続的景気拡大への十分な根拠はあるのである。

バブルは消えバランスシートは改善している

煎じつめれば、①ファンダメンタルズ面での条件は整っているのか、②FRBの金融政策に事態改善の力は残されているか、の2点が、重要であろう。①については、米国の想定外の貯蓄率の上昇(当初発表値に対して改定値は大きく上方修正された)で家計のバランスシート調整が速く進展しており、先行きの消費拡大を支えるとの見方は説得力がある。また、資産収入比率が長期平均値に回帰したとの説明は、バブルは解消したとの解釈であるが、それも妥当であろう。議長がどのデータを指しているのかは不明だが、図表3の米国家計不動産時価のGDPに対する比率は、バブル前の110~120%から2006年のバブルピーク時170%まで上昇したが、直近の2010年2Qでは113%に低下している。

弾丸は十分にある

次に②のFRBの政策余地が残されているかに関しては、①市場との対話(金融緩和長期維持を市場に確信させる)、②超過準備預金金利を引き下げる、③長期証券の購入、三つを挙げ、FRBは非伝統的金融政策と言う「デフレと闘う手段を持っている」と断じた。中でも長期債(さしあたっては米国債)の購入は投資家の「ポートフォリオ・リバランス・チャンネル」を通してリスクプレミアムを引き下げ金融環境を改善すると説明している。実際米国の長期金利の低下は、顕著な社債発行の増加をもたらしており、企業金融に多大なプラス効果を与えている。また史上最低まで低下した住宅ローン金利はいずれ、住宅需要を支えるだろう。 議長はまとめとして、対デフレの戦いに勝てる理由として、①FRBの戦う意思と能力を人々が信頼している、②FRBは戦闘態勢を整えている、の2点を強調している。米国においてはFRBの米国国債購入がもたらす長期金利の低下が、次の好循環をもたらす可能性は極めて高いのである。投資家は2008年の金融危機を沈静化したFRBの意思と能力を軽視してはなるまい。

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