2022年01月01日

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ストラテジーブレティン 第297号

2022年の市場展望
~NEXT GAFAMを担う日本企業のビジネスモデルに注目せよ~

あけましておめでとうございます。

清々しい新春をお迎えになられたこととお喜び申し上げます。

 

日頃武者リサーチのレポートをお読みいただき、ありがとうございます。

 

ここに新春号をお届けいたします。ご一読たまわれれば幸いです。

 

                                                                   2022年 元旦

 

 

2021年もハイテク敗戦、グリーン敗戦、金融敗戦、コロナ敗戦と自虐思考のオンパレードであった。ここまでくれば悲観も陰の極ではないか。敗戦はすべて過去に起こったこと、あるいは過去に蒔かれたマイナスの種が影響を残したことにすぎず、将来も敗け続けるということでは全くない。

 

過去を振り返ると、日本の最悪期はだいぶ前であったことがわかる。日本株(日経平均)のバブル後最安値は2009年3月10日の7054円、直近の高値は2021年9月14日の30795円、この12年間で日本の株価は4.37倍(年率13.1%)になった。このパフォーマンスは、米国を除けば世界の優等生。日本が本当に世界に劣後していたのはアベノミクスが始まる8年前までで、以降は着実なキャッチアップの過程に入っている。それは日本企業のビジネスモデルの大いなる変革と企業収益の飛躍的向上に支えられている。企業における価値創造こそが将来を形作る最も重要な要素であるから、このペースの株価成長が維持される可能性は大きい。となれば10年後の2031年には日経平均は10万円になる。なぜ日本において、企業による価値創造が期待できるのか、以下で考えてみる。

 

悲観論者と楽観論者で財産形成に極端な格差ができている。格差を非難する株式投資批判者は、政治や体制を糾弾するのではなく自らの不明さを反省するべきである。

 

 

 

 

(1)2022年の市場展望を楽観するべき理由

 

2022年、経済と市場は引き続き明るい年になるだろう。第一にグローバル投資環境は良好である。第二に日本株の再評価が始まり、バリュエーションが向上するかもしれない。

 

市場を巡る不確実性が大方消えて来た。米中対立は依然として熾烈だが、経済面では持久戦の様相が強まり不透明感は消えつつある。またコロナパンデミックも、オミクロンなど変異種の相次ぐ誕生から制圧には至らないが、経済への悪影響は減衰している。イノベーションの加速とフレンドリーな金融政策の下で、積極的投資姿勢を堅持するべきである。米国中間選挙、フランス、韓国の大統領選挙等の政治的イベントも大きな攪乱要因にはなりにくい。中国での政変(?)、韓国大統領選保守党候補勝利による日韓宥和、等のサプライズがあればむしろポジティブなものになる可能性が強い。日経平均28500~35000円、NYダウ工業株35000~40000ドル、米長期金利1.25~1.90%、ドル円113~123円、と見ている。個人資金のETFを通した市場流入が増加しており、インデックス主導、先物主導の市場構造は一段と強まっている。そのためボラテリティの高まりには注意が必要であろう。年央のどこかで一定の株価調整を想定するべきかもしれない。

 

米国金融引き締めの悪影響は心配するに及ばず

米国の金融引き締めに過度の心配は不要であろう。市場ではいつになく警戒感が強いので、意外に底堅い展開の年になるかもしれない。①インフレが一時的であること、②長期的金利低下趨勢が続くことが要因。自然利子率低下はさらなる株高、バリュエーションの上昇余地があることを示唆する。TINA(There is no alternative )という状況は2022年も続く。フレンドリー金融政策不変・マイルドインフレ・マイルド金利上昇の下で、リスクテイクが報われる環境が続くと考えられる。

 

 

 

 

日本株式、2021年は年初に30,000円を付けた後もしっかり

2021年の日本株式は意外にしっかりしていた。これまでの日本株の2大買い主体であった日銀と外国人の支援が全く止まったにもかかわらず前年比でプラスが維持された。①日銀がETF購入をほぼ停止したこと、②MSCI日本株採用銘柄減の影響もあり、外国人が日本株を売り越したこと、③指数に影響力が大きいソフトバンクグループ(7%の影響力)の大幅減益(アリババの株価急落により2020年度の5兆円から3兆円以下に)、等の悪材料にもかかわらず、バブル後最高値30700円からの調整は小幅であった。底流に相場体温の上昇があったことをうかがわせる。2022年はこれらの悪材料が一巡する。

 

 

 

 

新プレイヤーと新投資主体(個人の積立投資)が日本株の魅力度を高める

2022年に日本株式が相対的魅力度を高めるとしたら、その理由として以下4点ほどが指摘できる。

  1. 景気拡大上方修正幅大→コロナでは健康被害最小の日本が、先進国最大の経済被害(経済成長の落ち込み)を被った。コロナ終息による景気のリバウンドは日本が一番大きくなるだろう。IMFなどは日本の経済見通しを大幅に上方修正してくるのではないか。
  2. 地政学の順風・・円安容認、日本へのハイテククラスター回帰、運命の神が日本に微笑む
  3. 個人投資家資金の流入などにより株式需給改善、バリュートラップ脱却(=日本株の割安感是正)が進展していくだろう。
  4. 日本の潜在的優良ビジネスモデル再評価へ。

ここで特に説明が必要なのは、iii.とiv.である。

 

潜在的株式投資待機資金は世界最大級、証券投資口座着実に増加

日本の家計は全く金利が付かない現預金を1072兆円も保有している。この株式投資待機資金の大きさは世界最大級である。この資金の一部でも配当だけで2%のリターンがある株式市場に回れば、株価は大きく上昇する。その萌芽は見えつつある。真剣に自分の将来を考えなければならない若者を中心にして、つみたてNISAやiDeCoなどで資産形成を行う動きが、このコロナ禍において目立つようになってきた。図表8に見るように証券口座数の増加ペースが速まっている。早晩個人の株式積立資金が最大の株式買い主体に育っていくだろう。

 

 

 

 (2) NEXT GAFAMの資格を持つ日本企業群

 

日本産業の主役交代が急速に進んでいる

今や日本経済を代表する企業は、経団連や経済同友会などに集う、昭和時代からの銀行、重厚長大産業(鉄鋼・化学・重電・重工)、自動車、電機企業等のエリート企業群ではない。GAFAMにも対抗できるビジネスモデルを持つ新興大企業が、日本を代表するプレイヤーになっていることは、うれしい驚きである。時価総額ランキングの推移でみると、急激に日本の担い手企業が変わっている。それらは将来GAFAMにも匹敵する潜在力を持ってくるかもしれない。

 

 

日本は米国と異なりリーディングカンパニーの新陳代謝が長らく起きなかった。しかしコロナ危機を挟んだ数年間のうちに、日本の将来を託するのに十分な資格を持つ企業群が台頭している。図表11の緑シャドウは武者リサーチが勝手に(恣意的に)格付けしたNEXT GAFAM時代の日本のリーディング企業であるが、2015年までは上位20社中2社程度であったものが、2021年12月末では12社と急増していることがわかる。旧態依然たる大企業の停滞・没落と新興中堅企業の台頭という図式は10数年前から進行し、それは図表10に見るようにTOPIXの規模別株価パフォーマンスに如実に表れていた。その花形役者交代がいよいよ、ひのき舞台で起きつつあるのである。

 

 

GAFAMの既存ビジネスは収穫逓増期から収穫逓減期への過渡期にある

今世界ではGAFAMが飛ぶ鳥をも落とす勢いで繁栄し、米国株価もそれにより突出したパフォーマンスを続けている。それはGAFAMが支配するインターネットプラットフォーム産業が収穫逓増期にあるからである。

 

商品や産業は、①収穫逓増期、②収穫逓減期、③衰退期、④安定期(or 絶滅期)と言うライフサイクルを持っている。これをビールの飲酒量と効用の関係で考えてみよう。最初のミニグラスでは到底満足できないが大ジョッキーで一気に乾いたのどを潤す時に大いなる満足が得られる。ここまでが収穫逓増期であり、飲めば飲むほど、最初の一杯よりも次の一杯の方が大きな満足が得られる。しかしさらに飲み進めると徐々に快感が薄れる限界収穫逓減期に入る。そしてさらに飲み進むと悪酔いが始まり、快感は不快感に変わり、ついにはビールを飲むことを止める、これが減衰期である。農業の歴史を振り返ると、原始採集経済段階にあった人類が、農耕を始め飛躍的に生産力を高めたBC4000年以降、日本ではAC200年頃が収穫逓増期であり、超過リターンが人口増と、ピラミッド・古墳などの巨大構築物をもたらした。しかし古典派経済学が農業を分析の対象にした中世末期、近代初期には収穫逓減期に入り、産業革命とともに衰退期に入り、今ようやく安定期に入っている。

 

 

次のフロンティアを模索するGAFAM

インターネットが一般に普及して20数年が経過した。この間、米国にはグーグルやアップル、フェイスブック(メタ)、アマゾンといった超巨大ハイテク企業が誕生し、米国の株式市場は我が世の春を謳歌してきた。しかし、その勢もいよいよ鈍化する時期に入りつつあるのではないか。収穫逓増の時期を過ぎ、収穫逓減期に入っていくものと思われる。たとえば音楽や動画ストリーミング(自動配信)のジャンルでは多くの企業が参入して価格競争が起こり、収益性が悪化している。GAFAMはインターネットとサイバーの世界で多くの利便性を開拓して圧倒的ユーザーを獲得し、その独占的強みを活用してさまざまな外部のコンテンツメーカーを支配してきた。しかしスマホの新モデルに追加される新機能に対する驚きは小さくなってきた。機能の差がなくなったスマホメーカーが競争して価格が下がっていく時代に入り、プラットフォーマーの役割はさまざまなコンテンツを右から左に流すだけの単なる土管になっていくものと思われる。今後付加価値を生み出すのは、土管ではなく、その土管を通して提供されるコンテンツになっていくのではないか。またGAFAMなどの巨大なプラットフォーマーは、独占性を利用してネットアプリプロバイダーやコンテンツメーカーを支配し買収しコングロマリット化しているが、いずれ独占禁止法違反に問われるかも知れない。

 

フェイスブックが社名をメタに変更し、メタバースと呼ばれる仮想空間の開発を強化する方針を打ち出した。現在のプラットフォームビジネスが収益的に厳しくなる恐れが強まってきたなかで、新しい収益源を、さらなるバーチャルの世界に求めたのである。しかし、メタバースのような仮想空間はより臨場感を高めるだろうが、これまで程の熱狂を生み出すだろうか。メタバースには膨大なデータ処理のためのコストが必要なるが、コストパフォーマンスは低下していくのではないだろうか。

 

サイバーの世界のもう一つの新しいフロンティアは仮想通貨などブロックチェーンの世界であるが、それはデータの分散管理であり、プラットフォーマーが支配しにくい領域である。

 

次のフロンティア、①サイバーとフィジカルの統合(cyber physical interface)

むしろ、これから注目されるフロンティアはサイバーの世界の深掘りではなく、現実社会における課題解決に向けて、ハイテクをどう活かしていくか、であろう。今進行するIoTはモノがネットワークでつながるということであり、まさにサイバーと現実との融合そのものである。「SoftBank World2021」でソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏が「スマボの時代がやってくる」というテーマの基調講演を行った。AIで自ら学習し、柔軟に、臨機応変に動くロボットのことを「スマボ」、つまりスマートロボットと言っているのだが、このスマボを1億台、日本に導入すれば、労働人口にして10億人相当の国に生まれ変わる。少子超高齢社会で労働人口が減少している日本の社会課題解決に直結する、と主張する。

 

そして、このスマボに必要な要素技術は、スマボの目となる各種センサーと、スムーズな動作を可能にするアクチュエーターである。これらの要素技術において日本は世界最強のプレイヤーを擁している。センサーの覇者ともいうべきキーエンス(時価総額ランキング3位)、世界一の高性能モーターを製造している日本電産(同10位)、高性能部品の村田製作所(同19位)、半導体製造装置の東京エレクトロン(同6位)、半導体ウェファーの信越化学(同8位)、光学ガラスのニッチトップ企業HOYA(同17位)などは、サイバーとフィジカルを組み合わせた「サイバー・フィジカル・インターフェイス」時代の世界トップクラスのプレイヤーである。

 

 

次のフロンティア、②コンテンツ

GAFAMが提供する土管が安くなっていくと、それによって運ばれるコンテンツが価値創造の主体になる。ソニー(同2位)はGAFAMと一線を画しコンテンツにフォーカスした世界最大の企業ではないか。「感動を届ける」ことを企業理念としてうたい、映画・映像、音楽、ゲームなどで世界最強の基盤を整えている。任天堂(同15位)もゲームコンテンツに特化した世界的プレイヤーである。

 

世界最強の資本家、孫正義氏

そのほかでは、日本が擁する情報革命時代の世界最強の資本家孫正義氏のソフトバンクグループ(同7位)、アパレルの革命児柳井氏率いるファーストリテイリング(同16位)、フェイスブックが登場するよりもはるか前から出会いを仲立ちするマッチングビジネスを極め続けてきたリクルート(同4位)、環境では「空気で答えを出す会社」を標榜するダイキン工業(同12位)など、NEXT GAFAMの資格を持つビジネスモデルを確立したグローバルプレイヤーが揃っている。高い成長が期待できる各分野で世界トップシェアを持つ日本企業は、すでに勢ぞろいしているのである。これらが正当に評価され悲観ムードが一掃されることで、異常に割安の日本の株式市場は大きく変化していくものと期待される。

 

 

 

 

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