2011年02月10日

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ストラテジーブレティン 第39号

米独日に吹くグローバリゼーションの順風

急速な資金シフト、債券から株へ、新興国から先進国へ

2011年に入って以降、大規模な資金シフト、投資家のポートフォリオの組み換えが起きている。新興国株売り、米国株式ファンドへの資金流入と債券売り、金価格の下落、等である。昨年秋口までの、世界デフレシナリオの下で債券が買われ続けた局面からの大転換である。その背景に世界経済のリスク観の二極化がある。新興国でのリスクテイクが過多となる一方、先進国ではリスク回避過剰というコントラストが鮮明である。特に中国ではインフレ加速とバブルの増大により経済拡大の持続性が不安視され始めた。大半の新興国では景気の過熱とインフレ、資産バブルなどによって金融が引き締められるなど、成長隘路が顕在化している。他方先進国、なかでも中核の米独日は企業部門の調整、家計の貯蓄上昇、資産価格下落など、経済調整が万端であることに加えて、需要と雇用の停滞から金融は超緩和の状態にある。米国の新金融緩和QE2は新興国への資金流入・新興国の通貨高⇒新興国の引き締め、という形で新興国の経済運営を困難にしている。2011年は調整万端の先進国特に米独日に再び脚光があたり、先進国の株高・資産高が新規需要に結び付いていくだろう。

グローバリゼーション観の修正

こうした展開は常識的グローバリゼーション観の修正を求めるものである。グローバリゼーションつまり国際分業とは通説のように『新興国の飛躍と先進国の停滞』ではなく、双方の発展であるはずである。国際分業において新興国はチープレーバーを提供するが、それのみでは経済は成り立たない。先進国が提供する技術、資本、経営ノウハウ、マーケティングが同様に成長に必須の資源である。従ってグローバリゼーションの恩恵も当然新興国のみならず、先進国においても享受されるべきものである。新興国では労働賃金上昇、生活水準の急上昇が起こっている。他方先進国ではグローバリゼーションが企業利益を増加させている。リーマンショック後、米国企業の過去最高利益への急回復、大幅円高下での日本企業収益の急回復はグローバリゼーションのたまものである。

先進国の景気は企業利益と株高が起点に

先進国はいかにしてグローバリゼーションの果実を需要に転化するのか。①株高・資産効果、②先進国での知識集約投資、③世界レベルの知能への高給待遇、④先進国の生活レベルアップとそれを支える関連産業(サービス)など、多様な経路が考えられるが、それはこれからの挑戦である。明白なのは、先進国景気拡大のエンジンが、企業収益の拡大とその結果としての株高にあるということである。

先進国がけん引するグローバリゼーションの新段階

グローバリゼーションのこれまでの展開を振り返ると、明確な段階を経てきたことが、明らかとなる。第一段階は、米国の需要爆発と中国の離陸(2000年から2007年)。先進国、特に米国への資金集中と低金利により資産価格が上昇しバブル景気が現出され、中国は対米輸出急増により経済離陸を果たした。第二段階はバブル崩壊と新興国需要の急増(2007年から2010年)。米国のバブル崩壊が世界需要を急減させ、中国の財政出動・米国の超金融緩和が打ち出された。資金は新興国へと集中し新興国の成長加速、バブル化、インフレ化、と推移してきた。そしてこれからは第三段階、先進国への回帰(2011年からの展開)が始まるのではないか。グローバリゼーションの果実の先進国への配分により、先進国での新たな需要拡大循環に帰結するのではないか。 我々は依然、グローバリゼーションの強い順風を受けている。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------- <ご参考> 以下、ストラテジーブレティン Vol.12(2010年4月27日)より

浮上する米・独・日 ~ギリシャ危機の背景にドイツの競争力優位~

浮上のキーワードは『単位労働コストの抑制』

今年に入ってからほぼ4カ月間の世界株式パフォーマンスは、新興国による成長牽引、先進国の停滞というコンセンサスとは逆に、先進国上昇、新興国下落のコントラストが鮮明である。そして先進国の中では、不人気の米・独・日の浮上が顕著である。過去10年間経済停滞色が著しくアジアの衰退国と思われている日本がアジアのベストパフォーマーとなっている如く、ヨーロッパではかつての高賃金により最も閉塞感が強かったドイツの健闘が目立ち始めた。 今浮上しつつある米・独・日に共通しているのは、生産性の上昇と厳しいコスト削減による『単位労働コストの抑制』である。過去のレポートで米国、日本の状況は説明した(※)。今欧州においてはドイツの『単位労働コストの抑制』が情勢の焦点となっている。それは株式パフォーマンスのみならず、ギリシャ危機の原因ともいえるからである。 ※米国では過剰ともいえる雇用削減(2009年経済成長-2.4%なのに失業率は4%近く上昇した)で労働生産性が上昇し、不況下で劇的に労働分配率が低下していることを報告した(たとえば投資ストラテジーの焦点289号)。また日本に関しては過去20年間の超円高の中で、世界で唯一顕著な単位労働コストの低下を実現したことを報告した(投資ストラテジーの焦点287 、288号)。

通貨統合の問題は常に不均等発展の処理

ギリシャ危機はIMF と主要国の協調融資によってひとまず峠を越えた。しかし、その根本原因は除去されておらず、世界景気が悪化する場面ではより大規模な危機を生み出す素地を残している。ギリシャ危機とEU問題の根源は域内経済の不均等発展(生産性上昇率格差・コスト格差)にある。通貨統合以前なら生産性格差・コスト格差は通貨調整され各国内の経済安定が維持できた。しかし通貨調整と言う手段がなくなったことで、EU域内の生産性劣後国の政策運営は著しく困難になっている。最弱国ギリシャがその最初の被害者となった。 1999年通貨統合の当初高賃金国ドイツはアイルランド、スペイン、旧東欧諸国など新興EU加盟国に雇用を奪われ、厳しいデフレ圧力を受けた。その結果ドイツにおいて生産性向上・賃金抑制のプレッシャーが高まった。他方EU新興国は統合ブームによる労働需給ひっ迫で賃金が上昇、著しいコスト高となった(図表1)。その結果ドイツの輸出競争力が強化され、経常収支はドイツの突出した黒字、その他の大幅な赤字と言うコントラストが定着している(図表2)。 EUと言う域内固定レートではドイツの競争力優位は増大する一方である。欧州通貨統合の枠内でそれを処理しようとすれば、①EU新興諸国の生産性上昇、②EU新興諸国の賃金引き下げ・デフレ、③ドイツの賃金引上げ・インフレ、それらが無理となれば、④欧州通貨統合の崩壊が選択肢として浮上する。ECBという共通の中央銀行がドイツに賃金インフレを、EU新興諸国に賃金デフレをという異なる政策効果を誘導することは不可能である。またECBは雇用、成長にも責任を持つFRBと異なり、唯一通貨価値の維持にのみに専念すべき使命を与えられている。つまり②も③も容易ではないのである。 様々な緊急避難の弥縫策を講じつつ①のEU新興諸国の生産性上昇を待つほかはない、と言うところであろう。世界経済が大きく悪化すれば、④の可能性もあるがそれは政治的に容認されまい。となると、当分ドイツには賃金上昇の余力、企業マージン上昇の余力がため込まれることになる。 グローバリゼーションの熱風、空前の金融危機という大波乱を経て、世界経済は最も重要な価値基軸『単位労働コスト』に回帰しつつあるように思われる。『単位労働コスト』優良国日独は今回の世界的住宅バブルとは無縁で、資産価格が著しく割安である(図表3)。急ピッチで住宅バブル処理を完了した米国(図表4)とともに、魅力的投資対象の国に浮上するのではないか。

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