2026年04月16日

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ストラテジーブレティン 第398号

Mr. マーケットが正当化するトランプの破天荒作戦
~戸惑うメディア・専門家・コメンテイター~

(1) メディア・専門家のトランプ批判大合唱と堅調な市場との極端なギャップ

トランプ批判大合唱の中、2月28日のイラン空爆により8%%下落した米国株式(SP500指数)は4月13日に全値戻しを達成し、史上最高値更新まで後1%のところまで回復している。原油先物価格も期近物は90~110ドル/バーレルと高値圏に張り付いているが、6ヶ月先物は70ドル台で落ち着いている。市場はホルムズ海峡の長期封鎖や第三次石油ショックなどと言うセンセーションは全く想定していないのである。有事のドル高とは言えこの間のドルインデックスは98~100ポイントの狭い範囲内で終始し、インフレ懸念による米国長期金利も4%から4.5%まで上昇したものの、4月15日には4.2%台と過去一年間の中心値に戻っている。

 

市場はトランプ作戦に勝機を見出している
この市場の安定性と、メディアや専門家の間で喧伝される悲観論の大合唱とのギャップをどのように整理すればいいのだろうか。敢えて言えばトランプ政権の余りにも破天荒な政策の連発にメディアや専門家がついていけていない、と言うことだろう。しかしリアリズムに基づく金融市場は、トランプ政権の一連の政策はビジネス環境を阻害せず、むしろ明るい近未来があり得ると見ている。専門家やメディアの悲観論やトランプ政策非難は改めて説明するまでもないだろう。今説明されるべきは市場が見ているリアリズムとはどのようなものか、であろう。敢えて自らをMr.マーケットに擬して市場論理を正当化してみよう。

 

(2) ホルムズ海峡封鎖は続かない、原油価格はいずれ反落へ

ホルムズ封鎖は、窮鼠猫をかむ如くの悪手
まず第一にホルムズ海峡の封鎖は長期化せず、原油価格は半年から1年後にはイラン攻撃前の60から70ドル台に戻るのではないだろうか。原油先物市場では完全なバックワーデーション(現先逆ザヤ)となり、先安観が形成されている。

そもそも主要国の一次エネルギーに占める原油の依存率は、過去50年間で半減しているうえ、2010年代中頃からの米国のシェール革命により米国が世界最大の産油国になった。米国は今や鉱物燃料の純輸出国(年間貿易黒字1000億ドル程度)であり、エネルギーの中東依存度は大きく低下している。ちなみに日本のエネルギーに占める石油依存度も、1973年の第一次石油ショック時の76%から2010年40%、2024年35%と低下している。原油供給の2割が通るというホルムズ海峡の世界経済に対する重要度はだいぶ低下しているのである。サウジ東西パイプライン、UAEからアラビア海へのパイプライン等ホルムズ海峡を迂回するルートもあり、長期封鎖されたところで世界不況を引き起こすほどのインパクトはないだろう。

 

ホルムズの米国管理はイラン・中国にとって悪夢
より重要なことはホルムズ海峡の封鎖がだれの利益にもならないことである。サウジ、カタール、UAE等湾岸諸国のみならずイランにとっても海峡は生命線である。特に経済制裁下にあるイランにとって、ホルムズ海峡を経由した対中貿易は命綱である。原油輸出の9割が中国に輸出され、自由主義国が禁輸している製造業製品(軍事装備品、エネルギー関連設備、デュアルユース(軍民両用)技術製品)もホルムズ海峡を経由して中国から調達していると推測されている。

 

米国のイラン攻撃が熾烈化しホルムズ海峡の支配権が米国に移れば、イランにとっては命綱を絶たれることになる。またベネズエラ、イランと言う中国が影響下に収めていた諸国の離反は中国の国際プレゼンスの低下に結び付く。イランのホルムズ海峡を人質にとった政策は長くは続くはずのない「窮鼠猫をかむ如くの悪手である」ことは明らかである。5月14日のトランプ訪中前に、ホルムズ海峡解放の朗報が聞かれる可能性は大きいだろう。

 

(3) トランプ訪中から始まる米中共存時代

TACOの屈辱
第二に来るべきイラン停戦とホルムズ解放の後、世界地政学環境が一変することが予想される。背景に米中のパワーバランスの変化がある。2025年末のバランスは中国が優勢を強めていた。トランプ政権による145%関税引き上げは、中国のレアアース禁輸の脅かしにあい、腰砕けになった。トランプ氏はTACO(Trump Always Chickens Out)となり、弱腰化し、米中をG2と称して、中国を米国とともに世界をリードする特別の国と持ち上げた。4月に予定されていたトランプの訪中は、米国農産物などの輸入拡大、1年に限定されているレアアース供給の期間延長など、物乞い訪中になる、と見られた。カードは完全に中国に握られていたのである。

 

対中優位性を取り戻したトランプ政権
しかし年初以降の鮮やかな対ベネズエラ侵攻とマドゥロ大統領拉致、イラン空爆と指導者殺害などにより、米国は軍事力と機動力の高さを見せつけた。また中国が影響下に置いていたベネズエラ、イランなどの経済的に破綻している独裁国家を米国側に引き寄せた。昨年末発表されたNSS(国家安全保障戦略)では米国は相手国のレジーム変更は求めないものの、これ以上の中国の力による現状変更は絶対認めないという決意も表明した。

図1:米国の相手国別貿易赤字(年次ベース) 図表2: 米国の相手国別貿易赤字(四半期ベース)

米国の生命線に躍り出た台湾
注目するべきは台湾の米国にとっての重要性の高まりである。図表1は年ペースと四半期ベースで見た、米国貿易赤字の相手国別推移であるが、年次ベースで見ると対中赤字が急減し、代わって中国が工場移転を進めている対メキシコと対ベトナム向け赤字が急増していることがわかる。しかし四半期ベースで見ると、米国の対台湾赤字が急増し、今年に入ってからは台湾が米国にとっての、最大の貿易赤字国になっていることが伺われる。理由はTSMCを中心とした台湾AI関連製品の対米輸出急増である。今や米国のハイテク特にAI関連のハードウェアは完全に台湾に供給を依存しており、このトレンドはさらに強まるとみられる。今や台湾は、米国経済の生命線を握るまでに成長した。米国は台湾を絶対手放すことができなくなった。

 

ベネズエラ、イランで米国の好戦性を見せつけられた中国は、米中全面戦争の覚悟をしない限り、台湾侵攻は不可能と言う事態である。

 

5月14日からのトランプ訪中は、一転米国優位の下で交渉が展開されるだろう。米中は相手に銃口を向けつつ、表面的な協調共存を謳う時代に入っていくのではないだろうか。共に天を戴くことはないが、打倒することもできない相手として、経済共存を追求していくだろう。トランプ政権にとっては11月中間選挙に向けての経済環境の改善が必須であり、中国はバブル崩壊とデフレ進行、脆弱内需の下で、経済立て直しは急務である。

 

米中経済協力は株価にとって好材料
バブル崩壊が未だに道半ばの中国は、今後長期にわたって経済低迷を余儀なくされるだろう。2022年以降中国の名目経済成長率は米国を下回り続けている。これから米中の経済格差は拡大していく一方だろう。トランプ政権は米中共存の下での持久戦によって中国の覇権獲得を抑えて行くだろう。

 

この表面的ではあれ米中共存体制が確認されることは、当面の世界経済と市場にとってポジティブであろう。年後半の株高を推し進める追い風になる。

図表3: 米中名目GDP成長率推移

 

 

(4) トランプ政権の対中政策大転換(ストラテジーブレティン376号2025.4.1より)

レジームチェンジから平和共存へ
21世紀に入ってからの米国の対中国関与政策(Engagement Policy)は、『需要不在の工業力と言う巨大な不均衡(=中国と言う怪物)』をつくってしまった。

この中国とどう向き合うべきか。中国に圧力をかけ共産党独裁体制を転換するなどと言う、ネオコン的アブローチはもはや不可能である。第一次トランプ政権で外交・安全保障を担ったジョン・ボルトン氏やマイク・ポンペオ氏等のネオコン系指導者が採用されなかったことから、第二次トランプ政権がリアリストサイドに舵を切ったと見られる。

 

対中抑止と共存のリアリズム
中国との共存時代が続くことを前提に、長期的に中国を抑制していく戦略は、ジョージ・ケナン(George F Kennan)の対ソ封じ込め政策のような、中国封じ込めが必要になってくるだろう。ケナンはソ連は、1)自国の安定のためには米国社会の調和を破壊し生き方を押しつぶし権威を引きずり下ろすことが望ましいと狂信的に信じている勢力、とこき下ろす一方、2)ナチスと違って危険を冒さない、と共存の可能性も主張した。では今の中国は?

現代のケナンと評されるエルブリジ・コルビー氏が、国防次官として、米国軍事戦略の中枢に座った。コルビー氏は著書「アジア・フアースト~新・アメリカの軍事戦略~」の中で、1)中国が最大の脅威であり全資源をアジアに振り向けること、2)中国の台湾進攻などの現状変更、武力行使思い止まらせる必要、3)中国のレジームチェンジは求めない、と主張している。習近平に武力行使のコストが大きい事を思い知らせて事前にアクションをとどめること、ただし中国を追い込まず共存を続けること、となるのだろう。

破天荒に見えるベネズエラ、イランに対する武力行使も、このコルビー戦略の新展開と考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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