2010年02月03日

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ストラテジーブレティン 第4号

米国経済本格回復軌道に、いよいよ確かになった業績相場
~金融制度改革論議は当分決着せず~

米国景気は本格回復軌道に

2009年4QのGDP5.7%、2010年 1月ISM製造業指数58.4(2004年8月以降最高)は慎重論を打ち消す好内容である。GDP統計では企業部門に回復力が充満している姿が鮮明になった。ISM統計では受注の急伸に加えて在庫の減少(企業レベル、顧客レベルともに)、雇用指数改善が顕著であり、先行き一段の生産増加を示唆している。

米国企業部門に回復力が充満していることが如実

2009年4QのGDP5.7%成長に最も寄与したのは在庫部門(寄与率は3.4%と全体の6割)だがそれは減少幅の縮小によってもたらされたもので、在庫そのものは依然として減少を続けている。在庫水準(米国企業在庫対GDP比率)は過去最低水準まで低下しており、今後大幅な在庫積み増しが成長をけん引する可能性が高い。 また設備投資は大幅落ち込みの後6四半期振りに回復、企業部門の潤沢なフリーキャッシュフローが投資に振り向けられる可能性が強まっている。GDP設備投資比率は過去最低水準(9.4%)から鋭角回復の緒に就いた可能性がある。当然企業業績は過去最低の労働分配率に支えられた低コスト構造に加えての生産増加により空前の増益となってきた。2009年4QのSP500社中80%が市場予想を上回るという結果は、過去最高である(FT2.2日付)。それもコストカットから売り上げ増加へという、増益要因の変化はより景気加速をうかがわせるものとなっている。

いずれ雇用や消費に好材料が伝播し、本格回復を確かにさせることはほぼ確実に

企業部門の急速回復は、いずれ(または直ちに)米国雇用と消費に反映されるはず、2月~4月にかけて雇用統計と消費統計で力強い指標発表が相次ぐ可能性が高い。景気回復の端緒が始まった公算が強い。それはいつでも株価上昇力の最も強い時期に該当する。 図表1:米国 設備投資、在庫の対名目GDP比 ;図表2:ISM製造業景気指数

悲観論の根拠いよいよ薄弱に、政府部門の景気寄与は僅少、信用収縮も緩和の兆し

ダボスに集まった観念的悲観論者の大合唱とは裏腹に、悲観論の根拠はいよいよ薄弱になっている。その一つは政府の支援が景気回復を支えているのでその息切れとともに景気は腰折れするという議論である。しかし2009年4Qを見ると減税による家計所得押し上げ効果は一巡、他方政府の投資・消費は(国防費および歳入減に悩む地方政府の抑制により)マイナスの寄与となっていた。つまり4Qの成長はすべて民間牽引であり、そうした懸念は誤りであることが分かる。またFRBが四半期ごとに発表している融資担当者サーベイでは銀行の与信態度の好転が現れたと報告されている。今後資産価格の改善もあり信用好転に結び付くことは確実であろう。

ボルカー・ルールはたたき台

1月末市場を震撼させたオバマ大統領による突然の金融制度改革案(ボルカー・ルール)はその内実の粗雑さから、たたき台にしかならないことが明らかになった。言葉通りなら金融制度の根幹を変えるマグニチュードを持っており、株やクレジットの大暴落を招いていいはずなのに、市場はほとんど無視している。株式はわずか1割弱に満たない調整、債券市場ではクレジットリスクプレミアムはほとんど動いていない。 ボルカー・ルールは①金融危機の元凶、非銀行部門の過度のリスクテイクを抑制、管理する対策を持っていない、②国際巨大金融機関の制度改革が必須なのに、米国単独で国際的支持が得られない、③メールすら使わないと言われるボルカー氏は金融の技術革新(電子化、グローバル化された)を理解しているか疑わしい(FT1月23日付)、という欠陥を持っている。乱暴にもボルカー・ルールがそのままの形で導入されたら、それは米国が誇る世界最強の金融機関、企業を崩壊させることとなる。プラグマティックなアメリカがそのようなポピュリスト的選択をするのだろうか。金融はグローバリゼーションの恩恵を米国が回収する、最強のチャンネルなのであり、それを壊すことは考え難い。 再びホワイトハウス、議会、金融機関の間で議論進行。根強い金融機関批判に耐えうる制度改革の落とし所が探られることとなろう。それは数か月間では済まないだろう。 ボルカー・ルールによる市場のかく乱もこれまで、と考えて良いのではないか。世界の株式市場はいよいよ業績相場のスイートスポットに入っていくものと思われる。当然円安株高のトレンドは不変であろう。 図表3: S&P500とリスクプレミアムの推移 ;図表4:ISM製造業景気指数とTOPIX (前年比) 武者リサーチコメンンタリー(ストラテジーブレティン)Vol. 4 2010.2.3

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